払下げ出願

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 明治5年以降10か年の期限を決めて進められてきた開拓使による北海道開拓計画は、14年末で満期を迎えようとしていた。
 政府首脳は、開拓使廃止を前提に以後の北海道開拓をどのように進めるかを模索し、14年5月23日、太政官は開拓使に対して所管の工場払下げ見込みの調査を指示した。開拓使廃止が目前に迫ったことを認識した開拓使では、大書記官安田定則、権大書記官折田平内、金井信之、鈴木大亮の4名が協議し、1社を設立して開拓使の諸工場の払下げを受け、開拓使の事業を継承し殖産興業の実をあげたいとの趣旨の願書(明治14年9月5日「郵便報知新聞」)を開拓長官黒田清隆に提出した。この願書を受理した黒田長官は、7月21日「諸工場其他払下処分ノ儀ニ付伺」を太政官へ提出、4書記官の請願は黒田自身の希望を具現化するものであると述べ、許可を要請した(同前)。4書記官の願書は次のとおりである。
 
当使将来御改革ノ儀ニ就テハ先日来数々御内論ノ趣モ有之熟慮仕候処、卑官等ノ儀ハ当使創設ノ時ヨリ閣下ノ命令ニ従ヒ開拓ノ事業ニ従フコト茲ニ十有余年、菲才寸効ヲ奏スル能ハズ、実ニ閣下ニ対シ其責任ヲ免ガル可ラザル所ノモノナリ、然ドモ其素志ニ於テハ仮令官ヲ辞シ職ヲ解クモ終身北海道ノ事務ニ勉強シ従来ノ宿志ヲ貫キ、併セテ聊閣下盛意ノアル所ニ報ゼント願フノ外他事無之、然ルニ今ヤ当使諸工場払下ノ事アルニ際シ候ニ付テハ、卑官等一社ヲ私設シ、当使工場其他ノ内別紙ノ通リ允許ヲ蒙リ、各自担任当使ノ趣旨ヲ継ギ、専ラ北海道ノ事業ニ従事シ、駑力ヲ尽シテ当初設置ノ目的ヲ貫キ、殖産興行ノ道ヲ開キ度、右御裁可ノ上ハ速ニ辞表ヲ呈シ、会社仕組ノ細則取調電覧ニ可供候条、速ニ御裁可被下度候
(別紙)
一、収税品ハ従来本使ニ於テ運送販売シ来レル方法ニ拠レ共、取扱方ヲ明治十五年ヨリ二十四年迄十個年間委託セラレ手数料トシテ売捌代金百分ノ六(此内百分三ハ従来ノ成規ノ如ク売捌仲買人ヘ分賦スルモノトス)支給セラレ度事
  但シ時機ニヨリ相当ノ価格ヲ以テ産地ニ於テ払下ヲ請フトキハ許可セラレ度事
一、北海道準備米並ニ食塩ノ購入方ハ悉皆任セラレ相当ノ手数料ヲ給セラレ度事
一、左ニ記載(別表 表2-54)スル本使付属ノ官舎并ニ船艦諸工場等地所共無利足三十個年賦ヲ以テ払下ヲ許可セラレ度事
一、左ニ掲グル金額ハ東京札幌根室ノ各営業資本ト為リ、其局内ニ於テ取扱ヒ居ル等ノ額ナリ、之ヲ区分スレバ、
      東京  金六万五七五五円二○銭
      札幌  金三万五五四八円八七銭四厘
      根室  金四万一一九八円四二銭三厘
        合計 金一四万二五○二円四九銭七厘
是ハ明治十五年三月限リ相納ムヘキ弐百五拾万円ノ額内ヨリ使用セシ金額ナリ(別紙に大蔵省還納金目途添…表2-55)、故ニ特別ノ御詮議ヲ以テ年三朱利付十五ヶ年賦上納相願度事
但此他営業費不足ノ分ハ当社ニ於テ更ニ募集又ハ調達ノ方法ヲ設ケテ営業ヲ維持拡張ノ見込ナリ
(「五代友厚関係文書」国会図書館憲政資料室蔵、「大隈文書」早稲田大学図書館蔵、九月五日「報知新聞」、九月六日「朝野新聞」)

 
表2-54 払下げ物件一覧表

払下げ物件名
金額
東京大阪敦賀の部
 東京箱崎物産取扱所官舎倉庫地所共其他一切
 大阪旧貸付所々属官舎倉庫地所共
 敦賀官舎倉庫地所共
 玄武丸
 函館丸
 矯龍丸
 乗風丸
 清風丸
 西別丸
   合金
函館の部
 船場町地所
 常備倉地所共
   合金
札幌の部
 札幌牧羊場
 真駒内牧牛場
 新冠牧馬場
 葎草園
 桑園並蚕室
 麦酒醸造所
 葡萄酒醸造所
 葡萄園
 小樽収税庫並敷地
   合金
根室の部
 別海缶詰所
 厚岸缶詰所
 択捉臘虎猟所
 牧馬場
   合金
   通計金

29,809.161
1,999.000
536.330
73,130.044
37,122.000
50,974.140
10,250.000
18,061.083
22,690.750
244,572.508
 
7,904.520
38,266.423
46,170.943
 
3,443.426
14,221.055
11,505.620
1,740.000
12,077.689
7,219.651
2,401.400
2,939.732
1,330.726
56,879.299
 
19,751.688
8,848.583
3,330.000
7,528.996
39,459.267
387,082.017

 
表2-55 大蔵省還納金目途表(明治14年7月13日調)

項目
金額 円
国債局預
三井銀行預
第百十九国立銀行預
用達貸渡
商務局貸渡
函館支庁材木払代
函館支庁衣類払代
函館支庁高龍寺移転跡地払代
北海道物産商会返納金
運漕社返納金
本支庁漁業資本金
福山江差人民漁業資本金
本支庁家作改良資本
本庁営業資本金
旧公債証書実価
新公債証書実価
旧貸付金用達返納金
本庁払米代
本庁諸品購入資本
十四年度定額并諸収入金より可積置分
函館支庁準備金
作業費営業資本
   還納金額合計
100,000
240,000
9,000
15,000
119,311
83,900
7,541
1,547
30,000
95,800
390,000
41,066
90,000
20,000
※16,321
※40,865
47,483
600,000
44,607
※257,938
10,000
263,619
2,500,000

「五代友厚関係文書」国会図書館憲政資料室蔵より作成
※印の金額が後に訂正された金額のためか、実合計は2,523,998円となっている。

 
 北海道の収税品、準備米、食塩の取扱を一手に掌握し、さらに払下げ物件も流通関連の船舶倉庫等が75パーセントを占めており、まったく北海道の流通経済を牛耳ることになってしまうといっても過言でないほどの計画であった。
 8月1日、太政官は開拓使へ「上請ノ趣特別ノ詮議ヲ以テ聞届候、但シ従来ノ収税法変革有之候節ハ此限ニアラサル儀ト心得ヘシ」(9月5日「郵便報知新聞」)と払下げを許可、翌2日、開拓使から4書記官へ「願ノ趣聞届候、但シ別記収税品取扱方ノ儀ハ従来ノ収税法変革ノ節ハ此限ニアラズ、官舎船艦諸工場等払下ノ儀ハ更ニ詳細書ヲ認メ申出ベシ」(同前)と通達された。
 ここに払下げは確定、黒田長官は8月7日、4書記官へ書簡を送り開拓使の事業の継続に大きな期待を寄せていると激励した(「明治政史」『明治文化全集』)。