この各商業者の同業組合規則を制定する過程のなかで、それまで清商との取引慣習に種々の不正があったものを改革しようという機運が生じてきた。規約制定は北海道生産物にかかわる商業者のみならず重要物品を扱う業者にも要求されたが、特に清商と係わりのある業種の規約制定時に問題が明確となっていった。
まず函館市中の物産商が18年1月23日に集会を持ち組合規約の編成にあたったのを手始めに水産商、廻船問屋(その後荷請問屋と改称)、仲買商などが次々と会合を開き、翌2月18日に前記4組合は規約制定の願書を県庁に提出した。ところが函館の商習慣は一定したものがなく各規約相互に矛盾する面があり、その調整を図るために商事諮問会を2月22日から26日にかけて「商業老練ニシテ名望アルモノ二十四名」(明治18年「商業規約関係書類」道文蔵)を選び師範学校講堂で開催した。会議は「該議員ハ急進改良ヲ是トスルモノノ如ク論難駿撃其ノ熱心ヲ見ルニ是レ足レリ。傍聴ヲ乞ウ者ハ多クハ仲買等ニシテ物産ニ関係アル商業多シ。当時朝鮮事件(編注・甲申の変)結局ニ至ラズ民心ナヲ支那ニ関スル我政府ノ政策何レニアルヲ注目スルノ際ナレバ従来清商ニ壟断セラレタル我商権ノ毀損ヲ憤ル稍一層ノ刺激ヲ加ヘタル景状ナシトセズ」(同前)といった状況で清商に対する従来の悪弊を一掃しようという方向に各商業者の意識が結集した。この諮問会の終了後市中の動向を視察した函館県では各組合に諭示し規約が相互に矛盾するものを更正させ、3月下旬から4月上旬にかけて各組合の規約を認可した。
なかでも清商と取引関係を持つ水産商、物産商、荷請問屋、仲買商の4組合は諮問会での調整によって次のような規定を各規約におりこんだ。
(1)カンカン料(看貫料)の全廃 これは従来の清商との取引には買主である清商が自己の秤で秤量していたため手数として代価1000分の5を徴収していた。邦商では単に手数料として徴収されるのみならず、そこでは不正行為をなされていたとしている。 (2)付け昆布の全廃 これは無代価にて見本昆布を清商に与えていたものである。 (3)秤の扱いを売手側で行うこと 従来は買主である清商に委任していたものを売主あるいは仲立人が秤量して商品の授受をなすこととする。 (4)5斤飛の廃止 これは例えば105斤あれば5斤を捨て清算し106斤あれば105斤となし1斤を捨て清算するという買手にとっては実に不利で不合理なやりかたであった。 |
ちなみにカンカン料とは函館の商人が昆布等の取引に際して手数料的なものとして支払っていたもので、その起源は明治2、3年ころに清商と邦商の取引が本格化したころから始められたという(『函館商工会沿革誌』)。
4月に水産商組合などの4組合は連名で震大号、慎昌号、徳新号、成大号、有大号、東和号、源記号、ハウル社、ヘンソン社などの在留外国商社に対して上記の決定に基づいた取引方法の改正の通知をした。すなわち、権衡は売主の所有するものによる。ただし仲立人に依頼する場合もある。煎海鼠等は風袋引の現在量で受け渡しをすること。長切昆布は砂引として10貫目に付き200目ずつを売人より買人に渡す。権衡は売主で行うので、カンカン料を廃止する。見本昆布は廃止。仲立人の手数料は100分の25とし、買人から仲立人へ支払うことの6項目であった。
これらの条項をもりこんだ商業規約が実施されれば従来の利益を奪われるとした在留清商はこの通知に対しては翌5月に権衡は買主のものを用いる、5斤飛は従来通り実施、カンカン量は1000分の5を100分の1とする、見本昆布(付け昆布)は300石以下は1貫、300石以上は2貫を収入すること(1貫=1梱包、1石=40貫)という内約を定めて対抗措置を取った。