一方ペリーと応接掛松前勘解由との話合いはあまり進展していなかった。アメリカ船が早く着き過ぎたため、和親の実現、藩主とペリーとの応接、遊歩境界の設定、その他入用品の購入などの諸要求に対して、幕府からの沙汰がいまだ届かずその取計らいに苦慮していた。
　このため松前勘解由や遠藤らの応接係は、択捉島見分の帰途にあった幕府普請役井上富左右と相談し、上陸のこと、物品のことについて協議をすすめた。これに対しペリーは交渉の進展をせまり、さらに和親の必要性を強調した。苦慮した松前藩は、この時蝦夷地視察に向かっていた幕府目付堀織部、勘定吟味役村垣与三郎が三厩に到着した報を受け、早速に事情を申し述べ援助を願った。堀、村垣は属僚である安間純之進、平山謙次郎らを箱館へ派遣し、五月五日ペリーと会見させた。これより以前、箱館滞在中のペリーは、箱館湾内その他の調査を終わり、来航の目的を達し、さらに下田会見の予定日が近づいたことから、会見場では前の問題を再提起せず、ただ遊歩区域の決定を約し、五月八日箱館港を出航して行った。