[大正三年三月 東京大正博覽會 古武井礦山出品解説書 三井鑛山株式会社]

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産地
(一)位置及び名称
 古武井鉱山 当鉱山は北海道渡島国亀田郡尻岸内村字古武井にあり
(二)鉱区坪数
 採掘鉱区面積は一三五万二、七七二坪 試掘鉱区八九万二、四〇二坪なり
(三)交 通
 当鉱山は函館より東渡島半島の南岸に沿って戸井村まで七里、馬車の便あり、余りは山道西て馬車を通ずる能はざるを以て函館古武井間二七海里は汽船によるものとす
 
沿革
(一)発見の時代及び業務沿革
 元治元年四月、古武井村山野千松・樵夫孫兵衛の発見せし処にして同村惣代善兵衛始めて之を開坑せしが、明治元年五月故ありて中止し、その後転々鉱主を更め近時二分せられて、一は山縣勇三郎一は押野疆の所有なり、明治三五年乃至四三年の交最盛況を極めたりき、当会社は明治四四年一二月及び同四五年一月に於いていずれもこれを買収せり当今之を合併し古武井鉱山と称す
(二)技術上の沿革
 初め鉱床西部露頭にて露天掘をなし次に一、二、三、四番坑道、大切坑、新坑を開坑し現今は凡て坑内掘鑿(さく)を為すに至れり
 
鉱床
(一)地質
 下盤は火山灰質物と灰色中粒質の複照輝石安山岩塊との小結合せる凝灰質集塊岩より成り、上盤は分解せる安山岩を以て蔽う、この上盤と鉱層の間には一般に五尺乃至一〇尺の暗灰色粘土層ありて其固結せるものは頁岩状となりて屡(しばしば)小塊状の純硫黄を包含する
(二)鉱床
 凝灰質集塊岩上に成層したる沈澱鉱床にして層上は湾曲をなし其走向は北三〇度西乃至北一〇度東に至り東方に凹字形をなして急斜す、其傾斜は一五度乃至二五度希に三〇度に達する所あり鉱床は中央部最も厚く側部に於いて薄きものの如し
(三)主鉱物
 
 硫黄
採掘
(一)鑿岩法及び設備
 鉱石は鶴嘴(つるはし)又は鑿(のみ)を以て採掘し鉱石以外の硬石は発破(はっぱ)を用ゆ
(二)横坑道の数、寸法及び延長
 目下採掘中の坑道は左(下記)の五坑にして各坑道共、高さ五尺幅六尺なり而してその延長は新坑一一〇間、大切坑一九〇間、二坑一三〇間、三坑三一〇間、四坑三五〇間なりとす
(三)採鉱法
 主に長壁式を採用し所々に鉱柱式を実施す而して坑外南側面より走向に沿い開坑せる四箇の水平坑を運搬坑道として採掘す
(四)支柱法
 各坑道人道共凡て三尺毎に鳥居形の支柱を施し採掘跡には木積を組未土砂を充填す
(五)排水法及び設備
 各主要坑道側に疎水溝あり之により坑外に排水す、只四号坑道卸部のみ「ポンプ」二台を以て同坑道疎水溝迄揚水す
(六)通気法及び設備
 自然通風にして各坑道共互いに連絡し通気を保ちつつあり
(七)点燈法
 油燈及び横田式「アセチリン」燈を使用す
(八)坑内運搬法及び設備
 四箇の各水平坑道に一二听(ポンド)「レール」を布設し鉱石は容量〇・四二屯乃至〇・五三屯入鉱車に積込み人力にて坑外に運搬す而して各採鉱場より運搬坑道までは箱畚(ほん)(モッコ)を以て人背により搬出し鉱車に積載す
(九)鉱夫坑内交通法及び設備
 鉱夫は各運搬坑道坑口より徒歩出入す
 
選鉱
(一)選鉱所の位置
 左ムサの沢・右ムサの沢及び二双の三箇所にあり
(二)選鉱法及び設備
 手選法と水選法とを採用す、即ち、六分角鉄にて八分間隔に作れる傾斜四五度の斜面格子に掛け、塊粉を区別し塊鉱は手選し粉鉱は「スクーリン」下に設けられたる木製流水樋(幅一尺七寸深さ一尺)により一定の距離に於いて洗浄せしめ四分目及び五厘目金網を以て分類す
 
製煉
(一)製煉所の位置
 古武井字青盤(元山より約一里)及び旧山(元山より約一〇町)にあり
(二)冶金原料及び燃料
 総て選鉱せられたる鉱石より採取し燃料は薪材を用ゆ
(三)冶金法及び設備
 焼取法にして鋳鉄製焼取釜に鉱石を装入し、高度の火熱により蒸発せしめ導管を通して之を沈澱器に集め液体として円形缶に汲入れ凝結せしむ、現時焼取釜は一七台にして、火口二〇四個の釜を設備せり
 
坑外運搬法及び設備
 一二听(ポンド)軌道を選鉱所より製煉所迄及び古武井倉庫前に布設し、鉱石は屯八八入の鉱車により製煉所に運搬し、製品は一屯積台車二台を連結し海岸倉庫に運搬す、而してこれらの運搬には馬力を使用す
・玉村式架空索道を女那川、青盤間に設置し薪材搬出に使用す
 
原動力
 「コルニッシュ」式汽罐一五馬力(実馬力)「アトラス」式汽罐一五馬力(実馬力)各一台あり

鉱夫職工の種別、員数、賃金及び工数

鉱産額
 明治四五年・大正元年 一八、八〇八、〇七九斤
 大正二年       一六、八七七、八九八斤
品位
 九九(パーセント)
価格
 一斤  一銭六厘五毛四八
販路
 米国、豪州等とす
褒賞
 大正元年一一月 拓殖博覧会に出品三井鉱山株式会社対し名誉記念金牌を贈与せらる
 
審査請求主眼
(一)近来著しく改良を施したる要点
 ①採鉱法
  従来残柱法のみなりしを之に長壁法を併用し、又一方採鉱賃支払に跡間代を全廃して先山賃後山賃のみとなせり、その結果は坑内撰鉱に大いに良成績を示ししつつあり
 ②支柱法
  従来四号坑道以上昇方面は屡々坑道側迄も採掘せしにより、各坑道共上圧側圧著しく為に坑道の保存困難にして、従来四尺毎に本留(ほんどめ)を施しその間に間留(まどめ)を入るるを以て結局二尺毎に支柱をなしたり、この経費非常に多額に上り採鉱費の殆ど三分の一を占めしを以て、近時矢木を三尺五寸(従来四尺なりし)とし間留(まどめ)を省きて本留(ほんどめ)のみとし且つその間隔をも三尺に改め又矢木も従来上部左右両側全部に密挿せしを改めて疎らに之れを施す事とせり
 ③坑内運搬法
  四号坑道以下卸方面は当鉱山の最も有望なる部分にして、従来その運搬法及び排水法を人力曳揚機及び手働ポンプにより操業せしが、来る六月より愈一〇馬力発動機を据付け、之れをもって曳揚及び排水をなさしむる計画にて目下之れが工事中なり
 ④廃鉱処理法
  従来品位悪しく廃鉱として捨てられたる塊粉鉱を採収するものにして長さ二〇〇間幅八寸深さ五寸の木製流水樋を作り、以て鉱石を洗浄しその内に混入せる土砂を除去し精鉱となすものなり、この方法は未だ他にその類を見ず
 ⑤衡量法
  従来坑内搬出の鉱石は鉱車毎に衡量を検せざりしが、大正三年二月より各撰鉱場前に衡量機を据付け正しくその鉱量を検する事とす
 ⑥選鉱法
  各車の検鉱を一層厳にし且つ各洗鉱樋を出来得るだけ長くし、以て撰鉱の善良と歩留りの増加を計れり
                              (完)
     註 旧漢字は新漢字に、カタカナ表記は平仮名表記とする。