[気象]

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 戸井は北海道の最南端の渡島半島に位し、北部に渡島連山の山並を背負い、南部は津軽海狭に面し、寒暖両海流の影響を受けている。したがって海洋性の気候の地域で、寒暖の差が少なく、気候が温暖である。
 盛夏の候でも気温が30度を越える日は極めて少なく、冬期間でも零下10度以下になる日は少なく、冬期間の最低気温は、函館海洋気象台の過去六ケ年の統計では昭和41年が最低で零下17.5度、次が昭和42年の零下17.5度、昭和45年の零下15.6度で、大てい零下12・3度というのが普通で、道央、道東、道北のように零下20度、30度に下ることはない。
 初雪の降るのは例年11月の中旬頃であるが、雪が1米も2米も積って雪に埋れて春を迎えるということはない。雪は降っては消え、消えては又降るということを繰り返して春を迎える地域で、雪のないお正月を迎えることが多く、冬期間ソリやスキーですべる位の雪が積らず、除雪車で除雪したり、バスが雪のために不通になるということの殆んどない地域である。
 このような状態なので春に雪の消えるのも早く、草木の芽の萌え出るのも北海道の他地域よりも遥かに早い。
 然し夏期は同じ戸井町でも、汐首岬を境として東西両地域の差が大きい。夏期は津軽海峡にはいった寒暖流が武井の島沖で激しく接触することによって起る海霧が、戸井東部の海面や海上を覆い、汐首岬以西が天気がよくても汐首岬以東が天気が悪いということが多い。昆布採取期の天候も東部ど西部で差があり、汐首岬以東は天候が悪かったり、波が高くて昆布取のできない日でも、小安、釜谷方面は天候がよく昆布取をするという日が多い。
 南東の風(ヤマセ)の日は、東部は天候が悪いが、西部は割合天気がよい。又西風の強い日は、東部の方が西部より天候がよい。
 海岸線に沿うて帯状に続いている同一町村で、岬を境としてこのように天候に差があるという町村は珍らしいだろう。
 昔松前藩の権力と政策によって汐首岬を和人と蝦夷の居住地の境界とした時代があったが、この時代が終ってからも汐首岬を東西に越えるには、岬の「弥八落し」や「地蔵穴」の難所のある断崖絶壁が人々の通行を困難にし、小舟でこの岬を越えるには激しい潮流が人々の往復を拒(こば)んでいた。
 人間世界だけでなく、自然の気象条件や潮流、海流も昔から汐首岬を境にして異っていた。魚類の種類や棲息状態や海藻の種類も岬を境にして異っており、海藻を例にとると、同じマコンブでも岬の東西で質が違い、ガゴメと称している昆布は東部に多いが西部には殆んど繁殖しない。
 汐首岬はもちろん、背後の山も300米に満たない低い山であるがラジオ、テレビの感度は、西部はいいが東部は極端に悪い。このように昔から人間の往来を妨げ、潮流を左右し、天候までも画然と東西に差をつけ、電波時代になってからは電波を妨げるという汐首岬は誠に不思議な存在である。
 函館海洋気象台の統計による昭和45年の夏期と冬期の平均気温と最高、最低気温を比較すると次の通りである。

[気温]夏期 [気温]冬期

昭和45年の夏期と冬期の降水量を比較すると次の通りである。

[降水量]冬期 [降水量]夏期

 道央、道東、道北の内陸部は大陸性の気候で、夏期は30度を越える日が多く、冬期は零下20度、30度に下り積雪が多く半年間雪に埋もれた冬であるが、戸井では夏期は30度を越える日が極めて少なく、冬期は12月から3月までの4ヶ月間で、しかも気温は最低でも雰下20度を下るなどということはなく、雪は極めて少ない。こういう地域なので昔から冬中ドサンコ馬を山に放しておくという習慣が生れたのである。
 北海道としては雪の極めて少ない地域で、しかも気候が温暖なので本州中部以南から冬期積雪の候に戸井を訪れた人々は例外なく驚いている。

昭和45年の気象概況


最近5カ年間の平均気象状況