東北北部に広い分布をみせる十腰内式土器(三二七~三三二頁)は、沈線(ちんせん)で描かれた入組(いりくみ)・山形・同心円などの文様を主体とするⅠ群(式)土器、器面に疣(いぼ)状の小突起のある十腰内Ⅴ群(式)など特徴的な文様をもつ土器が多く、器面に磨きをかけ光滑を有するもの、施された縄文の上を軽く擦って縄目文様を潰した磨消縄文(すりけしじょうもん)もみられる。また器形では壺の形状を示すものも多く、後半期には土瓶(どびん)形の注口も出現するなど、器形がバラエティに富み、現代人が用いる食器類の根源的様相を抱かせている。
十腰内遺跡出土 十腰内Ⅰ群(式)土器
十腰内遺跡出土 十腰内Ⅰ群(式)土器
十腰内遺跡出土 十腰内Ⅴ・Ⅵ群(式)土器
(21~27 Ⅴ群,28~32 Ⅵ群)
十腰内Ⅰ群(式)土器(『岩木山』1966年 P332より)
14~21 十腰内Ⅰ群(式)土器,22 十腰内Ⅲ群(式)土器,23・24 十腰内Ⅴ群(式)土器
(『岩木山』1966年 P334・P339より)
十腰内Ⅵ群(式)土器(『岩木山』1966年 P339より)
また、この後期は食料の煮炊きに用いられた粗製(そせい)土器(器面に縄文が施された深鉢ないし甕形(かめがた)土器、内面に炭化物のこびりついているものが多い)と精製(せいせい)土器(土を吟味して丹念に作られた土器)が製作され、それぞれ用途に応じた使用がなされていたのであろう。とくに後者の精製土器は食料の盛りつけ用のほか、器面が磨かれている土器は祭祀専用に使われるなど、使い分けがなされていた可能性も考えられる。