三 考古学からみた中世的世界

192 ~ 193 / 553ページ
 近年の発掘調査の進展は目を見張るものがある。とくに津軽地域においては、原始・古代はもちろんのこと中世という時代においてさえ考古学的な遺構や遺物の発見がなければ、具体的な歴史像を描くことは不可能となっている。
 考古学資料は、中世社会に生きた人々の具体的生活、つまりどのような建物で生活し、どのような食器で食事をし、さらにどのような道具を使って生活をしていたかというような歴史の実像を示す資料として有効である。モノを中心とした視点から中世社会をみた場合、どのような津軽がみえてくるだろうか。
 時代変化の指標である遺構や遺物のうち、もっとも敏感に変化を示すのが食器である。食器は日常の飲食の場で使用されるとともに、神仏に奉納する儀礼のなかでも使用することから、経済的側面と精神的側面の二面性を有している。この食器の変化は、古代から中世にかけてもっとも顕著にあらわれ、基本的には土器から陶磁器へという大きな変革によって、古代社会から、中世社会に移行したと考えることができる。変革の画期は一二世紀から一三世紀のころである。
 弘前市域で、この時期を主体とする遺跡は中崎館(なかさきだて)遺跡であり、豊富な出土品や検出された遺構から時代の変化がよくわかるため、この遺跡を中心にしながら中世社会の開始をみることにしよう。