衣の道具

418 ~ 419 / 553ページ
衣服の素材となる繊維を取り出すための道具として苧引金(おひきがね)が特筆できる(図52-1~5)。苧引金は麻やカラムシを柔らかくしてその繊維を取るための道具であり、古代一〇世紀ごろから津軽地域の遺跡を中心に出土し、中世・近世を通じて使用され、現代も民俗事例として残っている。その形態は、古代の場合木部と鉄製刃部を目釘二ヵ所で留めるが、中世以降は木部に両端を打ち込むような形態となり、現在までその形態を踏襲する。境関館では一一点の出土があり、日常的に繊維を取り出す作業が行われていた。
 取り出した繊維に撚(よ)りをかける道具が紡錘車(ぼうすいしゃ)である(図52-6・7)。紡錘車も津軽の古代遺跡から普遍的に出土する。とくに現代まで使われている円盤の部分が木製の紡錘車は、境関館の井戸跡から中世遺物とともに出土したことによって、製作時期が一五世紀まで遡(さかのぼ)ることが明らかになっている。製作された糸を使って織り上げるための道具、つまり織機の類は出土例が少ない。

図52 苧引金と紡錘車 境関館出土品

 履き物としての下駄は出土が多い。境関館ではみられなかったが、堀越城では文様の施された製品や差歯になった下駄(写真176)、さらに独狐(とっこ)遺跡では子供用の小型下駄もみられ、下駄づくりの職人が存在したことは間違いない。

写真176 堀越城跡三之丸出土の下駄