日本における普選運動は、衆議院議員選挙法に規定された選挙人資格中の納税要件の撤廃を目指す、男子普選獲得運動の形をとった。
弘前の大衆紙『弘前新聞』(社長成田彦太郎)は大正三年一月十六日号に次のような論説を載せている。
「我が国の制限選挙の第一要件は、財産である。納税十円に満たない者は、学識、技芸、徳望あるも、選挙権は絶対に無いのである。是に於て予輩は常に之に不満を懐くと同時に、昨今益々此の念を深からしめたのである。」「過般本県に多額納税者の上院議員互選会があった。予輩は県下の財産家を代表する是等の地方の豪族が、今日選挙法の予想する如く、果して政治教育、政治道徳が、財産と比例して発達し、進歩し、而して彼等は模範的に選挙と政治行動を示すか熱心に冷静に注目したのである。」「然るに驚いたのは県下十五名の多額納税者は、財産こそ有れ、其の政治的行動は、辛うじて市町村会議員の選挙権を有する人間よりも、より堕落し、腐敗しおるのである。賄賂は無論行はるる、買収は有り、脅迫は有り、情実行はる、詐偽(ママ)横行、破廉恥縦横、投票売買、選挙棄権あらゆる背徳汚行を行ひて余す所がないではないか。」「財産の有無高下によりて、政治道徳訓練の準縄(じゅんじょう)を為した現行の選挙法精神は、此の一事に於いても、既に根底より破壊されているではないか。選挙権より財産の制限を撤回するのは、予等の当然の権利である。」
このように、納税金額の多少によって選挙権を制限する根拠が全く実態に即していないことを解明し、立憲政治本来の普通選挙を求めた。