弘前市長
金 澤 隆
『新編弘前市史』編纂事業は、市制施行百周年を記念して、平成元年、当時の福士文知市長の時代に始められたものでありますが、以来十七年を経て、ここに資料編五巻、通史編五巻が完結することとなりました。市民の皆様とともに、心から喜びに堪(た)えないところであります。
〝歴史は現在と過去との対話であり、未来との対話でもある〟を基本方針として編集、執筆された本市史の完成は、私たちが「なぜ今ここにいるのか」、または「私たちはどこから来てどこへ行くのか」という問いを生じさせたならば、必ずや有益なヒントと助言を与えてくれる存在になるものと確信しております。
津軽という地、あるいは弘前というまちに生まれ育った私たちは、すでにそのことによって歴史的存在であると言えると思います。先人たちのたゆまざる営為があって、私たちが今ここにいるのであり、歴史を知るとは、すなわち自分自身を識(し)ることにほかならないと考えるからです。
歴史は、また、興趣尽きることのないエピソードの宝庫でもあります。藩祖為信公の領国形成、二代信枚公による弘前城下の建設、東奥義塾創設者にして初代市長菊池九郎の奮闘、りんごに生涯を捧げた菊池楯衛、お城を桜で満たした内山覚弥、また、弘前に生まれ、国内外で活躍した陸羯南、笹森儀助、藤田謙一の事績等々、枚挙にいとまのない郷土の先輩たちの活躍を読むことは、それ自体がこの上ない楽しみであり、また、弘前市民であることを誇りに思う至福の時であります。
本市史が、広く市民の皆様に親しまれる書となり、末永く読み継がれることを念願しております。
完成までの長きにわたり監修の労をおとりいただきました乕尾俊哉先生、編集委員長の荒井清明先生、そして執筆をいただいた先生方、御協力をいただい皆様方に深く感謝を申し上げますとともに、森山泰太郎前編集委員長をはじめとして、本市史の完結をまたず、惜しくも亡くなられた小舘衷三編集委員、千葉寿雄近現代部会長ほかの皆様方の御冥福をお祈り申し上げまして、あいさつといたします。