新聞記事によると、石川貞治は五年十一月東京の白石鉱業所と試掘採鉱の契約を交わし、同鉱業所佐野正二技師が調査を行った。その結果有望な鉱床を発見したので、槇鉄男を主任として採鉱することになったという(北タイ 大5・12・23)。翌年一月の記事にも、「最近手にせる鉱石の品位は頗る良好なり」といわれている(北タイ 大6・1・20)。しかしその後資金難に苦しみ、閉山のやむなきに至った。投資額二万五〇〇〇円といわれている(手稲鉱山史)。
このほかに現札幌市域において試掘、探鉱が行われた鉱区は数多くあった。表14に大正九年七月現在の旧札幌郡内試掘鉱区一覧を掲げた。二五人(社)の事業者が、四一鉱区の鉱業権を得ていることがわかる。登録年月はすべて大正七年以降であり、それ以前に試掘された所はすでに放棄されているのであろう。地域的には豊平町がもっとも多く、事業者数にして一四、実数にして二九鉱区をしめている。久原鉱業のほかに日本製鋼所、古河鉱業などの大企業が試掘権を得ている。しかし、これらの鉱区のほとんどは本格的な鉱山経営に至らず断念されることになるのである。
表-14 札幌郡内の試掘鉱区(大9.7.1現在) |
町村 | 鉱種 | 登録年月 | 鉱区坪数 | 鉱業権者 | 所在地 |
手稲 | 金銀銅 | 大7. 7 | 549,450 | 矢野荘三郎外1名 | 愛媛県 |
琴似・手稲 | 鉄 | 7. 7 | 1,000,000 | 糸谷芳太郎 | 夕張郡夕張町 |
広島 | 石炭 | 7. 8 | 990,000 | 有田利之助 | 札幌区 |
手稲・朝里 | 鉄 | 7. 9 | 857,340 | 株式会社日本製鋼所 | 東京市 |
豊平 | 鉄 | 7. 9 | 603,332 | 後志製鉄株式会社 | 東京市 |
豊平 | 石油 | 7. 9 | 643,330 | 宝田石油株式会社 | 新潟県長岡市 |
琴似・手稲 | 金銀銅アンチモニー | 7.11 | 1,000,000 | 糸谷芳太郎 | 夕張郡夕張町 |
豊平 | 金銀銅 | 7. 4 | 1,000,000 | 河崎亥三吉外2名 | 札幌区 |
豊平 | 鉄 | 8. 4 | 675,600 | 野呂田良太外1名 | 小樽区 |
琴似 | 金銀銅アンチモニー | 8. 6 | 467,300 | 石川貞治 | 札幌区 |
豊平・広島・白石 | 石炭 | 8. 6 | 968,770 | 鈴木信外1名 | 東京市 |
豊平 | 石油 | 8. 6 | 436,907 | 日本石油株式会社 | 東京市 |
手稲・朝里 | 金銀銅鉛亜鉛 | 8. 7 | 349,872 | 株式会社日本製鋼所 | 東京市 |
手稲・朝里 | 金銀銅 | 8.10 | 992,800 | 青木慶三郎外1名 | 東京市 |
豊平 | 鉄 | 8.12 | 260,000 | 松原幸一 | 札幌区 |
札幌 | 鉄 | 8.12 | 610,200 | 坂井幸次郎外1名 | 札幌郡琴似村 |
藻岩 | 金銀銅 | 9.3~4 | 1,932,625 (2) | 笠島梅吉外3名 | 札幌区 |
広島 | 石炭 | 9. 4 | 886,500 | 三浦福治外2名 | 札幌郡豊平町 |
豊平 | 金銀銅 | 9. 5 | 661,500 | 古河鉱業株式会社 | 東京市 |
豊平 | 金銀銅亜鉛 | 9. 6 | 688,900 | 石本民治外2名 | 札幌区 |
豊平 | 金銀銅亜鉛硫化鉄 | 9. 6 | 1,578,500 (2) | 泉富蔵 | 札幌区 |
豊平 | 砒アンチモニー | 9. 6 | 756,650 | 狭間孫兵衛外2名 | 札幌区 |
豊平 | 金銀銅 | 9. 6 | 737,100 | 中居今 | 札幌区 |
豊平 | 金銀銅鉛亜鉛アンチモニー他 | 9. 6 | 11,265,563(15) | 久原鉱業株式会社 | 東京市 |
豊平 | 金銀銅亜鉛硫化鉄 | 9. 6 | 459,645 | 丹羽定吉 | 大阪府 |
1.鉱区坪数の右の( )は鉱区数。 2.農商務省鉱山局『札幌鉱務署管内鉱区一覧』(大正九年七月一日現在)より作成。 |