札幌の金融界は近時非常の不融通で、一般の商人は概して困難の模様であるが、其原因に就ては十人が九人まで、銀行が貸出しを渋るに由ると云ふて居る。(中略)札幌の銀行には何故に金が少ないか、是には種々の関係もあらうが、第一は日本銀行の再割引が円滑に出来ぬこと、第二は不景気の結果、売揚金に由る預金の減少したこと、第三は内地銀行より金を呼ぶだけ利鞘なきこと……
(北タイ 明44・5・30)
第一点について、日銀札幌出張所が廃止されてから、札幌区所在銀行の手形再割引は小樽支店の扱いとなったが、これは「他所払い」となり日銀支店が嫌うというのである。小樽の手形交換に出せないためであろう。そこでこの記事は、商人が売上金を極力預金すること、支払いは現金ではなく小切手を用いること、日銀の再割引が不便ならば拓銀の後援を請うことを提言している。このことから推測できることは、手形交換や小切手流通が未だ十分に行われない段階においては、商人の現金需要は強く、銀行にとって日銀再割引が不可欠であった。逆に日銀再割引が不便であることの打開策として、大銀行の手形業務参入と手形交換所の設置が必要であったということである。札幌においては明治四十四年、大正五年の拓銀の商業金融への進出に加えて、手形交換が五年五月一日に開始されたのである。
表21は、札幌における手形交換高を示したものである。交換枚数はこの四年間で約二倍化し、その金額は約三倍化している。大正五年分の統計がないが、新聞によると五年五月一日から六年三月末までの交換枚数は四万二九八七枚、その金額は一一五九万六四九円であり、「予想以上の好成績」であるとされた(北タイ 大6・4・9)。
表-21 札幌手形交換所の手形交換高 (単位;千円/枚) |
大正6年 | 7年 | 8年 | 9年 | |||||
枚数 | 金額 | 枚数 | 金額 | 枚数 | 金額 | 枚数 | 金額 | |
1 月 | 3,014 | 953 | 4,013 | 2,055 | 5,867 | 3,659 | 7,271 | 5,285 |
2 | 3,134 | 936 | 4,479 | 2,138 | 6,300 | 3,560 | 7,779 | 4,938 |
3 | 4,956 | 1,375 | 6,133 | 2,555 | 3,950 | 3,595 | 11,360 | 6,166 |
4 | 6,651 | 1,192 | 10,652 | 2,570 | 11,329 | 3,755 | 12,674 | 6,232 |
5 | 6,103 | 1,295 | 8,523 | 2,571 | 8,894 | 4,788 | 10,184 | 5,425 |
6 | 4,733 | 1,560 | 5,822 | 2,697 | 7,048 | 4,337 | 9,268 | 5,064 |
7 | 3,992 | 1,349 | 8,049 | 2,456 | 9,203 | 4,750 | 9,575 | 4,522 |
8 | 3,508 | 1,456 | 5,077 | 3,033 | 6,721 | 4,884 | 7,544 | 4,387 |
9 | 3,992 | 1,812 | 5,462 | 3,675 | 7,087 | 5,993 | 8,216 | 6,050 |
10 | 5,306 | 2,119 | 6,577 | 3,427 | 8,041 | 5,834 | 8,920 | 5,221 |
11 | 6,068 | 2,082 | 7,375 | 4,338 | 9,215 | 6,747 | 9,311 | 4,974 |
12 | 6,763 | 3,292 | 9,187 | 5,352 | 11,771 | 8,524 | 11,542 | 6,279 |
合計 | 58,220 | 19,423 | 81,349 | 36,867 | 95,426 | 60,426 | 113,644 | 59,522 |
大正6,7年は『札幌商業会議所統計年報』(第10回),8年~9年11月は『大阪銀行通信録』258号~280号,9年12月は『札幌商業会議所報』(19号)により作成。 |
手形交換が行われる前提として、銀行組合が組織されなければならない。函館、小樽、旭川に次いで、ようやく大正四年十月に札幌銀行組合が拓銀、第一銀行、十二銀行、北海道銀行、拓殖貯金銀行の五行をメンバーとして結成された(北タイ 大4・9・29、10・5)。手形交換所を構成したのもこの五行である。この時の札幌所在銀行のうち、中立銀行支店、札幌銀行、共栄貯金銀行支店、不動貯金銀行代理店、京和銀行代理店は加わっていなかった。北海銀行が第一銀行支店に改組されたことが、札幌における銀行組織化を促進したとみることができるだろう。