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札幌の防衛

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 昭和十七年四月十八日、アメリカ軍による日本本土初空襲により国内の防衛強化が緊急課題となり、北部軍管区札幌飛行場を基地として室蘭の防空を強化し、また根室、釧路、十勝、網走方面への部隊配置を進めた。五月に札幌は訓練実施の重要地域に指定され、十八年になると札幌聯隊区司令部が中心になって特設警備隊を編成し、札幌防衛の任にあたることとなった。これは在郷軍人会員による地域の特性を発揮した警備隊を作ろうとしたもので、聯隊区司令官が隊長を兼務した。
 このほか札幌防衛のためにいろいろな部隊が配置されるようになる。しかし秘密保持と絡んで全容を把握することは目下のところ困難であるが、たとえば中央区中島公園に陸軍だが船舶の部隊が駐屯していたという。海兵隊のような任務を持っていたのだと伝える人がいる。また、東区美香保公園高射砲陣地だったとされる。
昭和十七年、美香保公園に陸軍の高射砲陣地が構築された。丘珠の陸軍飛行場と北二十四条西八丁目周辺の海兵飛行場が敵機攻撃目標となったが、札幌の中心部からの侵入経路に美香保公園があたっていたためだ。昭和二十年七月十五日の札幌空襲時には高射砲陣地へも機銃掃射され、付近の民家も飛弾の巻き添えを受けたが、高射砲は一発も応戦することがなかった。それもそのはず、高射砲はすでに北千島の前線基地に移動しており、撤去後は丸太棒に着色した擬装砲が敵機にむけむなしい威嚇をしていたのである。また、現在の北二十二条東二丁目北側には木造二階建、延べ二百坪(六百六十平方メートル)の兵舎があり、九五七四部隊(北部軍特殊情報部隊教育隊)が置かれ、将校以下約百人が駐屯していた。
(東区拓殖史)

 このほか厚別区の弾薬庫、白石区の兵器工場など市民の記憶と言い伝えはいくつかあるものの、史料で内容を検証することは容易でない。そうした中で『田口英男資料』(防衛庁防衛研究所蔵)が手がかりとなる。これは敗戦直後、アメリカ軍が占領政策をすすめるため日本側に提出させた資料控で、八月十五日現在の北海道樺太千島における兵備状況を地図に記入したものである。作成にあたったのは北部復員連絡局総務課長(陸軍少佐)田口英男で、十月三日付で提出されたと思われる。その中の一枚の地図に八月十五日札幌に配置されていた部隊等が記入されており、これを一覧表にしたのが表30である。史料は英文のため部隊名等の和訳を付したが、不適切な個所も多いので、訂正は後日に期したい。これによれば札幌駐屯の主力は北部軍管区司令部と第七輸送聯隊である。前者にはおそらく第五方面軍を含んだ数字であろうし、後者はもしかすると第七師団の一部隊なのかもしれない。
表-30 札幌駐在兵員機関一覧
部隊名
corps
指揮官
commander
兵員数
number
北部軍管区司令部
 N.A.Hdqts
樋口季一郎(中将)
 L-g.Higuchi
486
 
航空情報隊       ※
 Radio locator corps
イシダ (少佐)
 M.Ishida
147
 
固定通信隊
 Fixed telegraph corps
オギハラ (少佐)
 M.Ogihara
191
 
防疫部         ※
 Plague prevention corps
オオタ (少佐)
 M.Ota
1
 
歩兵第26聯隊の主力部隊 ※
 main part/26 iR
ヤマグチ (大佐)
 C.Yamaguchi
27
 
第7輸送聯隊の一部    ※
 a part/7TR
スズキ (大尉)
 Cap.suzuki
353
 
要塞建築第2中隊     ※
 2nd construction company
カワタ (大尉)
 Cap.Kawata
9
 
第25通信聯隊の一部
 a part/25TLR
ナカヤマ (少佐)
 M.Nakayama
95
 
独立自動車第294中隊
 294th automobile company
キタウラ (大尉)
 Cap.Kitaura
139
 
兵器補給廠
 Ordnance supply depot
イソノ (中佐)
 L-c.Isono
274
 
札幌陸軍病院
 Sapporo military hospital
ハセガワ (大佐)
 C.Hasegawa
269
 
札幌聯隊区司令部
 Sapporo regimental distriet headquarters
ホシ (少将)
 M-g.Hoshi
37
 
札幌鉄道区司令部
 Sapporo railway distriet headquarters
スズキ (少将)
 M-g.Suzuki
65
 
兵器補給廠札幌支廠
 Sapporo munition branch depot
オオムラ (中佐)
 L-c.Omura
46
 
被服本廠札幌支廠
 Sapporo clothing branch depot
マツムラ (大佐)
 C.Matumura
48
 
糧秣本廠札幌支廠
 Sapporo provision branch depot
ヤマモト (大佐)
 C.Yamamoto
49
 
獣医用品廠札幌支廠
 Sapporo veterinary store branch depot
コガネマル (中佐)
 L-c.Koganemaru
25
 
医薬品廠札幌支廠
 Sapporo medical store branch depot
ワダ (中佐)
 L-c.Wada
64
 
札幌燃料補給廠 
 Sapporo fuel depot
エドガワ (中佐)
 L-c.Edogawa
20
 
憲兵隊
 Military police
アカフジ (少将)
 M-g.Akafuji
78
 
特別憲兵隊       ※
 Extra military police

 
31
 
第1飛行師団司令部の一部
 a part/IFD. Hdqts
コニシ (中佐)
 L-c.Konishi
280
 
兵員合計 2,734
1.※は古い部隊(not present corps' but old corps')。
2.“A guide for the seats of remaining corps”『田口英男資料』(防衛庁防衛研究所蔵)より作成。

 もう一つの史料として、示村貞夫『旭川第七師団』中の昭和二十年八月十五日現在第五方面軍隷下各兵団・部隊一覧表がある。表30と重複するものを除き抄出すると次のようになる。もっとも和訳の違いから同一部隊が別名になっている場合もあるかと思う。
   札幌を所在地とする兵団部隊
第七師団防疫給水部(編成 昭19・7・16)、第五方面軍司令部(19・2・17)、第七六独立通信作業隊(20・5・23)、第八〇独立通信作業隊(20・5・23)、北部軍管区臨時勤務隊(20・2・11)、第三〇八特設警備工兵隊(19・6・4)、特設警備第三五七大隊(19・1・4)、第二一航空基地司令部(17・4・30)、飛行第五四戦隊(16・12・30)、第一七八飛行場大隊(19・8・20)、第一航空固定通信隊(19・4・30)、第一一野戦気象隊(18・12・31)、第六野戦航空補給廠(17・5・31)、第一一九独立整備隊(19・7・25)

 なお『田口英男資料』の別図には、札幌に俘虜収容所月寒分所(本所は美唄)、第一、第二飛行場、砲台(高射砲陣地か)があったとされている。俘虜収容所月寒分所には将校一四、准士官以下八の計二二人が収容されていた(The seats of all P.O.W camps and internment camps, of allied country P.O.Ws and internees.)。飛行場については後述する。