この経画調査委員会の研究成果と推測できるのは、訓育部の調査報告書と思われる大正十一年に都市計画係から出された『札幌市訓育ニ関スル施設計画』と近晋策の「大札幌と都市計画」だけである。「大札幌と都市計画」は、北海タイムスに十年十月十二日から三回にわたって連載されたものである。それによると「左に掲ぐるは嘗て札幌区都市計画調査委員会の案件項目に就いて調査を試みたのである。該委員会は区制の終了と同時に消滅に帰したが新市制と共に復活すべき大切なる機関であることは言ふまでもない」として、一四の項目について論じている。最後に結論として、「以上は都市計画中の都市改良と交通に関した事柄のみである。訓育、保健、産業等の施設計画は何れも慎重審議を要する案件が堆積してゐる」として、市会議員の判断と市民の愛市心で完成すると締めくくっている(北タイ 大11・10・12、13、14)。また小樽新聞では「札幌都市計画/調査内容」という題名で、「札幌市役所都市係りにては本市都市計画に関して調査中なりし処この程脱稿せる」として、一五項目にわたる調査報告書を掲載している(樽新 大11・10・13、14、17、20)。小樽新聞の一五項目は、経画委員会の規則と同委員会の庶務規則である。両新聞を比較すると、多少の字句の違いと若干の文章の違いがあるが、ほとんどの文章と字句は同じであり、大意は全く同じである。したがってどちらも本来の報告文の要旨であるように思われる。また北海タイムスがいう訓育に関する報告書が前述のものと思われる。
内容全文を紹介はできないので、「大札幌と都市計画」の項目名だけ列記すると、1区域拡張、2町名設定、3停車場位置並に貨物停車場新設付踏切線改良、4地域設定、5公園小遊園地景勝地、6市内道路系統、7郊外連絡道路、8市内外電車線路の選定、9市内道路の改良、10地下埋設物、路上工作物の整理、11排水溝敷設、12路傍樹植栽、13河川の整理、14上下水道計画である。
この報告書は、都市計画区域と札幌市の領域とを混同して考察している。そのため「区域拡張」という観点となっている。札幌市の都市像を想定することになる、区域の設定に関する「区域拡張」と「地域設定」の要旨を紹介する。
〔区域拡張〕現在面積六八〇万八三一九坪(八平方哩七、周囲六里三四町)、現在人口一一万六二八三人とし、大正六十年人口を四一万と試算し、人口密度を一人当たり一五~四〇坪という数字に加え、環境の問題も考慮に入れて区域を設定している。その区域は「故に本市は東は月寒川、西は発寒川、南は豊平川上流熊谷法華、北は苗穂鉄橋下より茨戸に放流さるゝ豊平川治水計画線に沿うて札幌村界までとし之れが活用面積は一千二百七十万一千四百七十八坪(一六平方哩三、周囲八里六町)」とした。
〔地域設定〕都市計画法に則り、地域の種類を大別し、住居、商業及び工業の三種とすることとその条件を設定する。工業地域は南東の風が多いことから風下となる鉄道線以北の拡張予定区域を設定する。住居地帯は、市民に健康かつ心持良き住居を保証するため、その目的を阻害する用途の建築物を建築しないようにする事を提言する。商業地帯は各種の営業を行うための利便性を完全に保障することを眼目としている。したがって不体裁な小屋掛式の建築や装飾、ショーウィンドゥを設ける等建築上の注意が必要であるとする。さらに商業地帯には防火地帯を設定し、不燃建築物に新築や改築をすること、そのための資金を低利で貸し出す保証を工夫する。