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都市計画地域の問題

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 この都市計画地域について、新聞では「住居地域は建築に対して最も厳重な制限を有し、商業地域は夫より稍緩大であり工業地域は無制限に如何なる様式設計の建築物を建てもいいことになってゐる」とするが、ただ既設の工場については、営業内容種類によって細かな分類があり、「不適合工場の将来に甚だしく不安を感ずる向が生ずる」と報道している。そしてその周知徹底について道庁建築監督官村上技師の言葉を載せ、「遠慮なく御問合を願ひたい。その時印刷物も差上げる。又指定された図面は道庁建築工場課に備へておいて一般の便宜の為め市役所警察署へも備へ付けてある」としている(北タイ 昭8・8・4夕)。
 だが札幌の各地域の将来構想については、あまり明確な方針を持って臨んだようには思われない。この都市計画地域決定の都市計画北海道委員会の議事録はないが、次の都市計画街路決定の委員会の議事録では、桑園地区の地域制指定について若干の質疑応答が記録されている。
 札幌市会議員の福島利雄から、桑園方面の住居地域の決定と、札沼線の開通による桑園周辺の工場地帯化について、どのような見通しであったのか質問が出された。それに対して、道庁都市計画課の塩谷勇は、桑園を住居地域に指定したことについて、「大体アノ方面ハ鉄道等ノ関係モアリマシテ、全部ヲ住居地域ニ致ス訳ニ参ラヌノデアリマス。マア大体ノ傾向カラ申シマスレバ、土地高燥閑雅デアリ、住宅地トシテ適当ノ地域デアリマスカラ、大体住居地域ニ致シマシタガ、鉄道利用ノ関係ヲ考慮シマシテ、其ノ付近ヲ特ニ商業地域ニ致シテ倉庫ノ建設或ハ中、小規模ノ工業ノ経営ニ就イテ支障ノナイ様ニ致シテアルノデアリ」、さらに「ハッキリ予想ノ付カヌトキハ一応住居地域ト致シテ置イテ、将来ノ情勢ヲ観マシテ本格的ニ工業地帯ニ変更スル必要ガアルト云フ見透シノツイタ際ニ変更ヲ考ヘルコトガ、大体地域指定ノ取扱方ニナッテ居ルノデアリマス」と答弁した。基本方針として将来の予想のつかない場合は住居地域としておくというのである。そのため札幌市会議員の吉田豊吉から、札幌市民としても桑園方面を工場地帯として発展させたいという希望があるので、「都市計画上相当ノ御考慮ヲ払ハレンコトヲ切ニ希望」すると述べている(第一四回都市計画北海道地方委員会議事速記録)。札幌の将来像の一つに工業都市の側面を強化するというのは、新聞記事などにも散見できる。札沼線の開通を機に桑園方面を工業地帯としようとするときに、都市計画で桑園方面が工業地域外であるため、工場誘致に支障があるとして、工業地域への変更を関係当局に働きかけるようにという建議案が市会に提出されていたのである(昭和十一年札幌市会会議書)。桑園方面を工業地域とするのか、住居地域とするのか、その当否について云々できないが、桑園方面を住居地域と指定した仕方に曖昧さが見受けられる。このことから、各地域の将来性を詳しく検討して都市計画地域を設定したわけではなさそうな様子が窺い知れる。