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北海道拓殖銀行の業務展開

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 札幌市に本店を置き、特殊銀行であった北海道拓殖銀行(以下拓銀と略)のこの時期の営業状況をみていこう。なお拓銀については、先行研究により基本的事実は明らかにされているので、これまであまり指摘されていなかった事柄を中心に述べることにする。
 図3に貸借対照表上の主要項目を掲げた。図中の債券預金計の債券とは、拓銀が発行した拓殖債券のことである。拓銀は、日本勧業銀行、府県農工銀行などと性格を同じくする不動産銀行であり、特殊銀行として債券発行の特権を有し、しかも債券の一部は、政府が預金部資金をもって引き受けた。これによって、不動産抵当長期貸付を低利で行うことが可能となったわけである。普通銀行では、預金と貸金との比(預貸率)が営業状況を示すひとつの指標となるが、不動産銀行では、預金と債券が貸金の原資となるので、債券預金計と貸金の比をみなければならない。

図-3 北海道拓殖銀行主要勘定(北海道拓殖銀行『営業報告書』〔各期〕より作成)

 貸金は、図3では、長期貸付金と短期貸出金に分けて表示した。長期貸付金とは、年賦償還貸付金(三〇カ年以内)、定期償還貸付金(五カ年以内)の合計である。短期貸出金とは、一般貸付、当座貸越、手形貸付、割引手形、荷為替手形などの合計である。北海道拓殖銀行法は、その制定時(明32・3)には不動産銀行としての性格を明確にするために、短期貸出金総額を長期貸付金総額の五分の一以内に制限していた。しかし、短期貸出の制限は資金運用上の桎梏となったために、明治三十八年三月の法改正において、短期貸出金総額は長期貸付金総額の二分の一までと緩和され、短期貸出金の種類も拡大された。この制限は大正五年三月の法改正で三分の二に引き上げられ、さらに九年七月の改正により長期貸付金総額と同額まで引き上げられた(北海道拓殖銀行史 昭46)。図3の長期貸付金、短期貸出金をみると、後者は前者のほぼ半額の規模で推移したことがわかる。昭和恐慌回復期(昭和八年下半期以降)では、長期貸付金残高が毎期減少し、短期貸出金残高は増え続けるので、後者の前者に対する比率は、十年上半期から五〇パーセントを超えるようになった。この時期には、拓銀固有資金による長期貸付業務は減退し、預金部資金による長期貸付に比重を置いていた(斉藤仁 旧北海道拓殖銀行論)。
 普通銀行の預貸率に該当する、預金債券計と貸出金総計との比(便宜上「預貸率」とよぶ)をみてみよう。昭和八年上半期まで後者が前者を上回り、普通銀行でいう「オーバーローン」状態になっている。預貸率のピークは、北海道において不況が深刻であった大正十五年下半期であり、一一四パーセントに達していた。また、昭和恐慌下の昭和五年上半期から七年上半期までにおいても一〇五パーセント以上に達していた。ところが、八年下半期以降は、ほぼ毎期一〇〇パーセントを下回るようになる。これは長期貸付金の低下が原因である。戦間期、とりわけ昭和八年までは長期貸付金残高が増えていたが、これは、年賦償還貸付を受けた土功組合が返済できずに残高が累積したという側面をも物語っている。また、同じ不動産銀行である日本勧業銀行、府県農工銀行は、この時期に債券預金と貸出を減少させつつ預貸率は一〇〇パーセント前後で推移していた。債券預金と貸出を伸ばしたのは拓銀の特徴といえる(藤原洋二 国債累積下の金融構造―昭和初期の資金循環―)。
 ところで、拓銀貸出金の原資たる拓殖債券と預金は、どちらが多かったのだろうか。大正十一年上半期では債券預金計のうち六六・二パーセントが債券、三三・八パーセントが預金であった。その後、債券の比率は低下し、昭和十一年上半期には五四・二パーセントになっている。図3の最初である大正十一年上半期から昭和十一年下半期にかけて、拓殖債券は一・五倍、預金は二・六倍になった。拓殖債券発行の特徴を図4によりみてみよう。まず、債券発行残高の対前期伸び率と預金残高の対前期伸び率を比べよう。大正十二年上半期に預金が大きく減少したが債券は増えた。十四年下半期から十五年下半期にかけて債券が三期連続マイナスを示したが預金は三期連続で増え続けた。三年上半期から四年上半期にかけて、同じく債券が三期連続マイナスを示し、預金は三期連続で増えた。これ以後は、以前ほど明瞭ではないものの、昭和七年~十一年にかけて預金が比較的順調に伸びるのに対して、債券は低い伸び、もしくはマイナスとなっていた。すなわち、預金と債券は互いに補い合う形で増減していたのである。また、債券の伸びが大きくプラスになった年に着目すると、大正十二年上・下半期、昭和二年上・下半期、五年下半期、七年上・下半期であった。これらは、恐慌の時期と一致している。債券発行残高は、景気循環に反する動きを示し、預金と合わせて貸出金原資を維持していたということができよう。

図-4 債券預金短期貸出伸び率(北海道拓殖銀行『営業報告書』〔各期〕より作成)