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スポーツ振興法の制定

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 スポーツ・レクリェーションが社会教育法の下に入ることにより、戦後の社会体育はその基礎的基盤を確立した。しかし一方では、スポーツ団体が社会教育団体として認定されることによるデメリットも生じた。その最たるものは、スポーツ団体に対する補助金の廃止であり、民間団体として独立した日本体育協会やその傘下の団体は、その対策に苦慮した。昭和二十四年六月に文部省体育局が廃止され、社会体育の所管は社会教育運動課に移された。体育局の廃止は、地方自治体の体育・スポーツ所管部局の減少、社会体育行政の一時的弱体化を招いた。二十五年五月、社会教育局は全国的規模での「社会体育実施調査」を行い、今後の社会体育政策上顧慮すべき要点を示した。
一、わが国民生活における自由時間は諸外国に比して僅少であり、自由時間の増大は文化国家の根本政策である。
二、青少年教育における自由時間善用の課題。
三、スポーツ・レクリェーションのための望ましい環境づくり。
四、長時間労働による個癖のための矯正体操、スポーツマッサージの研究。
五、学校体育と社会体育との関連。
六、中高年者に対するスポーツ・レクリェーションの普及啓蒙。

 この調査をふまえて、国民のスポーツ振興のための具体的な進め方の手引として、「社会体育実施要項」が作成された。この要項は地域と職場スポーツの重視を基調として構成され、地域スポーツについては、指導者、施設、組織、行事、財源など、スポーツの実施に際しての具体案を示し、職場スポーツについては、経営者の任務、労働時間、行事計画、業務上配慮すべき問題点を指摘している。北海道教育委員会は二十六年に、『社会体育指導の手引』、『社会体育指導員必携』を刊行し、関連団体に配布した。
 スポーツ・レクリェーションが普及し、スポーツ団体や愛好者の増大とともに、各種スポーツ施設の充実を求める世論が高まった。二十七年の北海道教育委員会の調査によれば、道内二七八市町村のうち、三二市町村が何らかの社会体育施設を配置したに過ぎなかった。しかしながら三十年の調査では、全道の各種社会体育施設は九五施設と三倍の増加を示した。中でも札幌市は二十九年の第九回国民体育大会の開催によって、市内各所にスポーツ施設の新設・改修が行われ、社会体育施設は二二施設に達した。円山総合運動場、中島球場・庭球場、中島プール、美香保公園野球場・陸上競技場は、市が誇る近代的な競技施設であった。表15は、後の時期の設立も含めて、四十七年段階で札幌市教育委員会が管理している体育施設一覧である。
表-15 札幌市教育委員会が管理する体育施設(昭47年度)
施設名称所在面積竣工規模
中央体育館中)北1東63,468.36m2昭41. 6地上4階建 収容人員700人
中島野球場中)南12西421,054m2昭24. 7両翼93.8m センター110.9m
収容人員20,000人
中島庭球場中)南16西46,144m2昭29. 8
昭44.10
アンツーカーコート6面
2面増設 収容人員1,500人
中島プール中)南14西43,874m2昭44. 7日本水連C級公認プール
競泳用プール50m×21m
美香保体育館東)北22東425,377m2昭45.102階建 夏季・温水プール
冬季・スケートリンク 収容人員1,800人
美香保公園野球場昭26. 8隣接して,A・B・C三面の軟式野球場
月寒体育館豊)月寒東1―849,466m2昭46.11地下1階地上1階及び段床夏季は卓球・柔道・剣道など冬季はスケートリンク
収容人員5,000人
月寒運動広場昭37  隣接して軟式野球場・ラグビー場等
藤野リュージュ競技場南)藤野96,704m2昭45.12国際リュージュ連盟公認コース
全長1,100m
円山総合運動場陸上競技場中)宮ヶ丘346,770m2昭 9. 8日本陸連第1種公認競技場
収容人員30,000人
冬季はスケートリンク
補助競技場6,105m2昭29. 8陸上競技場の補助グラウンド
野球場35,313m2昭 9. 8両翼99,6m センター112,7m
収容人員35,000人
庭球場17,619m2昭 9. 8
昭34. 7
クレーコート8面
収容人員4,000人
宮の森ジャンプ競技場中)宮の森45,402m2昭45.1170m級 全長333.479m
収容人員30,000人
大倉山ジャンプ競技場(国立)中)宮の森56,799m2昭45.1190m級 全長395.001m
収容人員50,000人
荒井山シャンツェ荒井山6,239m2昭29  規定最長距離40m 中高校生向
手稲丸山スキー場手稲富岡63,005m2昭42  
藻岩シャンツェ藻岩山6,046m2昭44  規定最長距離30m 小中学生向
札幌市教育委員会『札幌市の教育』(昭47)より作成。

 三十二年二月、アジア大会の準備とオリンピック東京招致運動の高揚の中で、内閣にスポーツ振興審議会が発足した。「スポーツの国民一般に対する普及振興ならびにその国際交換を促進させるための根本方針について」(審議会答申 昭32・6・18)では、文部省に体育主管局の設置、総理府にスポーツ行政連絡協議会の設置、東京オリンピック招致対策委員会の設置を旨とする構想が示された。また、「体育指導員の制度化とスポーツ施設の充実について」(審議会第二次答申 昭32・10・1)では、以下のような指摘がなされている。①スポーツの指導組織の充実、特に指導者の養成。市町村体育指導員の制度化とその充実。専任職員の配置、特に企業にスポーツ指導者を配置すること。スポーツ団体の指導者養成、選手・コーチへの助成。②スポーツ施設の充実について。地域スポーツ施設の基準の策定。施設建設に対する国の一部補助。公園、広場等のスポーツへの活用。
 スポーツ振興審議会の答申にもとづきながら、三十三年五月に体育局が復活し、体育・スポーツ諸施設等の統合機関が設置されていく。また三十六年六月には、スポーツ振興の基本となる「スポーツ振興法」が超党派の議員立法として成立した。同法はスポーツ振興に関する国および地方公共団体の施策の基準を明らかにすることを目的としたもので、この法律の運用にあたっては、非強制性、教育目的性、非営利性の三点が強調されている。ところで、国民のスポーツ振興にとって不可欠な条件は、施設・場所・指導者の確保である。スポーツ振興法では施設について、「国および地方公共団体は体育館、プールその他の政令で定めるスポーツ施設が政令で定める基準に達するよう、その整備に努めなければならない」(第十二条)とされ、また国家の補助(第二十条)として、体育館プールなどに要する経費の三分の一を補助することが謳われている。スポーツを行う場については、「国および地方公共団体は、その設置する学校の教育に支障のない限り、当該学校のスポーツ施設を一般のスポーツのための利用に供するよう努めなければならない」(第十三条)とし、学校施設の活用が強調されている。また指導者については、体育指導委員の設置について定めている(第十九条)。