ところが、バブル崩壊後の四年、一転して就職情勢が悪化した。景気後退による長期不況への入り口である。五年三月は、求人が二〇パーセントも減少の予測がされ(道新 平4・8・26)、六年には長引く不況を反映して採用は五年実績に比べ六割が抑制、なかには二年続きで「求人無し」の事業所もあり、採用増は公共事業が好調な建設・セメントなど窯業、鉱業、港湾・倉庫のみとなった。
七年(一九九五)はさらに情勢が悪化した。正規職員の雇用が減り、代わって人材派遣会社が六年比で三割も増加し、リストラクチャリング(事業の再構築)をはじめ、職場でのパソコン普及による事務省力化も採用減に繫がってきた(道新 平8・6・6)。さらに、十年の道内の高校生就職内定率は十一月段階で二二・五パーセントの史上最低となり、企業からの求人倍率は高校卒〇・七六倍、中学卒〇・九二倍で初めて一割を割った。この状況に対して、北海道高等学校教職員組合は市内をデモ行進し、「高校生に就職の機会を」「高校生の就職難は時代が悪い、不況が悪いでは片づかない社会的な問題である」と訴えた(道新 平10・11・7)。厳しさに直撃された高校生のなかには、求人減に対し動きがとれず、不安とあきらめから、定職につかずアルバイト暮らしをするフリーター(フリー・アルバイター)になればよいという生徒も出始めた(道新 平10・12・2)。企業側もリストラを余儀なくされているため新採用の力はなくなり、就職戦線は「超氷河期」から「真っ暗闇」(道新 平10・12・4)の状況に入った。失業率は最悪の四・四パーセント、求人倍率も〇・四倍とそれまでの最悪になった。
その後失業率は高くなり、十一年には景気回復の兆しが伝えられるなかで失業率が上昇し、五・一パーセントになった。原因は、企業の本格化したリストラを背景に中高年層の自発的な失業者が増え続けたことによる。十一年三月の学卒者未就職者は大量の予想となった(道新 平11・4・30)。十二年六月になると、「雇用最悪期脱す」(道新 平12・6・30)といわれながらも、求人は情報技術(IT)化により不要になる中間業者も多く、それらの事業所で働く従業員が失業を余儀なくされるという情報技術革新転換期の苦しみもあった(道新 平12・6・30)。
以上の道内就職戦線の変遷は、札幌市内の就職状況を中心とした動向である。表43は、昭和五十五年から六十年の低成長期の六年間、バブル経済が札幌の雇用情勢に如実に反映した六十三年から平成三年までの四年間、さらに一転して出口の見えない長期平成不況期(平成四~十三年)における市内中学・高校卒の新規学卒の就職状況の推移である。中学卒業者は、進学率が九四パーセントから九七パーセント台に上昇して全国的にも最も高い状況になり、就職率はさらに低下の傾向となった。好況期の平成二年(一九九〇)の四六八人のように、技術を習得して働きたい中学生もいたが、十三年にはわずか九二人が就職でき、「無業・その他」の就職先が無い者や、高校に行きたいにもかかわらず諸事情により行けない中学卒、家事手伝いが二年以降は就職者を上回り、毎年二〇〇人から三〇〇人に達した。
表-43 札幌市内中学校・高校卒業者就職率・進学率の推移(昭和55~平成13年) |
中学卒業者 | 高校卒業者 | |||||||||||
総数 (人) | 就職者 | 進学率 (%) | 無業・その他 | 総数 (人) | 就職者 | 進学率 (%) | 無業・その他 | |||||
(人) | 比率(%) | (人) | 比率(%) | (人) | 比率(%) | (人) | 比率(%) | |||||
昭55 | 17,494 | 413 | 2.4 | 94.9 | 195 | 1.1 | 14,475 | 4,716 | 32.5 | 39.3 | 1,425 | 9.8 |
昭60 | 21,175 | 391 | 1.9 | 95.3 | 379 | 1.8 | 15,596 | 4,293 | 27.2 | 37.5 | 1,098 | 7.0 |
平 2 | 25,239 | 468 | 1.9 | 96.1 | 296 | 1.2 | 20,748 | 5,549 | 26.8 | 34.8 | 1,355 | 6.6 |
平 7 | 22,417 | 228 | 1.0 | 97.1 | 270 | 1.2 | 21,241 | 3,428 | 16.2 | 37.6 | 2,542 | 12.0 |
平13 | 19,934 | 92 | 0.5 | 97.4 | 262 | 1.3 | 18,636 | 1,961 | 10.5 | 46.9 | 1,907 | 10.2 |
『札幌市統計書』「中学校・高等学校の卒業後の状況」各年より作成。各年5月1日現在の学校基本調査による人数。 就職者には自家営業についた者を含み、無業・その他には家事手伝い・一時的に仕事に就いた者を含む。 <就職しつつ進学している者>を含まないため比率の合計は100%にならない。 高校卒業者の進学率は該当年の高卒業者総数に対する短大・大学等進学者(就職しつつ進学した人を含む)合計の比率を表し、教育訓練等や各種学校・専修学校進学者を含まない。 |
同じく表43に示したように、高校卒業者の進学率(短大・大学進学含む)は、五十五年の三九・三パーセントから平成十三年には四六・九パーセントの高さになった。一方では、就職できた五十五年の三二・五パーセントが、不況期の十三年にはわずか一〇・五パーセントの一九六一人に著しく減少した。逆に増加し続けたのが「無業・その他」の就職も進学もしていない者である。「自分にあった仕事が見つからない」などの理由で就職の道を選ばない生徒や採用試験不合格者などが、七年の不況期に約二五〇〇人に増えた。さらに十三年は、卒業総数の一〇・二パーセントにあたる一九〇七人となり、就職できた者と同数に近い結果となった。多くはフリーターとなって不況期の厳しさのなか求職活動を行った。しかも、正規社員を削減し派遣社員や臨時・パートに切り替える事業所が増える傾向から、正社員に雇用される機会がないままフリーターの期間が長期化した若者が増え、雇用形態を変える要因としても社会問題となりつつある。厚生労働省は、フリーターを派遣社員や継続雇用のパートを含まない臨時のアルバイトをしている若者と定義し、十三年の全国調査では一九三万人と発表した。