[現代訳]

 
 (前欠)にごり水が(川あるいは用水路へ)流れ込み、用水を田へかけることができなくなり、不作になった。
 浅間山の大噴火による砂石が村々の用水路を埋め、用水路が大破したところが数カ所ある。百姓が自力で修復できないことから、藩役所へ援助を願い出た。そのうえ見分の役人へも願書を提出するので、善処を願いたい。今秋の様子では、村々には人足を出して普請をする力がない。普請ができないと来年の耕作にも差し支えるので、困りはてている。
 畑作物のうち、当郡百姓のおもな食糧は黍である。黍は、例年では秋彼岸に入ると少しずつ収穫して食糧にしている。しかし、今秋は明日二十四日から彼岸に入るが、ようやく穂が出かかったところだ。しかも、穂の色は紫色で、これでは食糧にならない。
 浅間山はいまだに噴火が止まない。今月十七日午後二時ころから翌朝まで噴火を続け、噴煙は南方へ吹き返した。雨に交じり石砂が降った。その後の大風雨によって、硫黄の毒が植物に染みこんだのか、畑作物がすべて白く枯れ、痛んだ。なかでも菜・大根・煙草は、役に立たなくなってしまった。そのほかの畑作物も、今の様子では実が入らないように思われる。
 当国は、秋の彼岸を過ぎると霜が降りる。それが早いか、遅いかは見当がつかない。六十年前の卯年には、彼岸の入口に霜が降り、田畑の作物が全滅して飢饉になったという記録があると覚えている者がいる。当国では、霜が降りるまでに収穫を終えることになっている。なんとか霜が降りるのが遅れ、少しずつでも収穫ができれば大幸に思うが、もはや彼岸に入るので、まもなく霜が降りるであろう。そうなれば諸作物の種も失うほどの大難になるであろう。その結果、百姓が飢えるだけでなく、上様も困ることになると思われるので、このことを再度訴える。
 昨年の秋は、田方がはなはだ不作で、たびたび救助を願い出たところ、米値段を調節するなどしてくれたので、百姓一同ありがたく思った。その後、今年の麦作も例年の半分くらいしか取れない不作で、村々の百姓は困っている。貧しい百姓は当春以来、米代や上納金を、秋の収穫を抵当として借りた。ところが、秋になるとひどい凶作だったので、借りた金を返すことができず困りはてている。
 世間の様子は右のような状態なので、今年の暮れにはどうなるかわからないためか、米穀・金銭の貸し借りが、すでに現時点において不活発で、大小の百姓が難儀している。
 浅間山が大噴火したとき、麓の村々の人々は村を捨てて逃げ出し、岩村田藩領内の村々へ多数入り込んできた。よんどころなく、しばらく面倒を見たが、その費用がおびただしくかかった。これも今になると、百姓の痛手になっている。
 浅間山の大噴火以来、いまだに噴火が終わっていない。しかも雨天勝ちで、世上には様々な浮説があり人々を驚かせている。そのうえ凶作で胸と腹を痛めているためか、百姓の気持ちが騒々しくなり、あらゆることで村役人の処置に差し支えが生じ困っている。
 現状は、右のとおりである。ぜひ、現状を見分し、江戸の屋敷へ報告していただき、善処していただけるよう願うものである。