長野郷土史研究会 小林一郎
往来物とは、寺子屋などで用いられた教科書類の総称です。古くは往復書簡の形式であったことから、往来物と呼ばれています。こうしたものは平安時代からありましたが、江戸時代には寺子屋の普及に伴って、さまざまな種類の往来物が登場しました。その中に、寺社の参詣案内書の体裁をとった一連の往来物があります。
江戸では雑司ヶ谷(鬼子母神)詣で、堀之内祖師(妙法寺)詣でなどの流行によって、それらの参詣案内の往来物が出版されました。さらに、江ノ島弁財天、成田山、小湊誕生寺などへの小旅行を楽しむ人も多く、そのための往来物も多数出版されています。こうした流れの中で、遠方の寺社への参詣案内の往来物も登場しました。「道中膝栗毛」で知られた戯作者、十返舎一九の『戸隠善光寺往来』も、その一つです。