冒頭に見開きで、「信州川中島舟渡之図」があります。この位置に口絵があるのは、参詣案内の往来物には一般的なことです。上段に遠景として「水内郡芋井郷善光寺」の図があり、下段に近景として丹波島の渡しを渡る舟が描かれています。
舟の先頭で2人の男が力強く綱をたぐっています。舟は、いわば逆向きに進んでいるのです。綱が3本あることは、『地震後世俗語之種』(『善光寺大地震図会』)などの図とも一致しています。棹をさしている男は2人で、後ろの男は笠をかぶり、右手で前方を指さしています。この男が船長で、指示を出しているのでしょう。
陸には舟を待っているらしい人々がいます。舟の方を指さしている男は、笠をかぶっていないので、旅人ではなく、船頭の仲間でしょう。厨子を背負い、錫杖(しゃくじょう)を手にした僧がいます。厨子には笠が付いています。諸国を巡って善光寺をめざす僧でしょう。
上下の図の間には、「舟渡しハ斎(犀)川といふ。水上ハ飛騨の国より出て、水上は梓川といふ。筑广(摩)川と落合。此所にてハ大河となり、舟の棹たゝす、綱にて向ふへわたる川なり」という説明が記されています。