本書は全三32巻からなっています。
まず、「第一諸城記上」は、松本城の開基と城主交替年数並びに諸普請士屋敷割城下の町割と、松本から近国への道筋並びに信濃国中諸城下の方角道程、領地境等の大略をまとめ、「第二諸城記下」は、信濃国の7藩の城の歴史の概略をまとめています。
第3巻以下第7巻までの5巻は「信濃国郡境記」として、信濃国内の各郡境・知行高・山川・寺社・古戦場をまとめていて、信濃国全体の近世の地誌概略といってよいでしょう。
第8巻以後第16巻までの9巻は、「松本領御朱印郷村高辻」としてまとめられ、諸史料にもとづいて、松本領内の安曇・筑両郡の各組ごとに、編さん時点での郷村別の高辻について明細に記しています。
第17巻「筑摩・安曇両郡旧俗伝」には、安曇・筑摩両郡に伝わる旧俗伝をまとめています。収録した「泉小太郎伝説」は、この巻から採録しています。
古くから伝わることは「其説詳ナラザル事」が多いが、これらも「古ヲ考へ今ヲ知ルノ一端ナレバ弃奔テ置キ難キ」ために別に集めて一巻としたと書かれています(第一七の巻頭文)。「信府統記」の編者の意気込みがうかがえます。
第18巻「松本領古城記」は、松本領内の古城について各組ごとにこまかく記述しています。第19・20巻の「松本領諸社記」と、第22巻の「松本領諸寺院記」は、松本領内の安曇・筑摩両郡の寺社を網羅しています。第23巻「松本城地形間数記」で、松本城と城下の地形および間数などを詳述して城の規模をまとめています。第24巻「評論御裁許記」は領堺等における争論の裁許記録編です。第25巻から29巻までの「松本領諸件別記」の5巻は、宗門改・鉄砲改・関所番所改および国絵図のこと、新田開発とその年数並びに分知郷村のこと、貞享三年松本領百姓訴訟のこと、高札場・林竹藪・留山・巣鷹山などのことを記しています。第30巻「信濃国中名所和歌寄」は、信濃国中の名所と関係和歌をあげ、第31巻、32巻「道程記」には、松本を中心とした諸道の道程が記録されています。
以上のように、「信府統記」は、いわば享保期の松本藩の百科事典のような内容であり、掲載史料の質の高さ、史実の考証、論述の客観性などから、編さんの姿勢は科学的で実証的なものとなっています。近世の松本藩政を知る基本的重要文献史料として最高のものであるといってよいでしょう。