7.本校の目的

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 本校の目的は実業学校令及農業学校規定に基き林業の実務に鞅掌(おうしょう:せわしくはたらいて、ひまのないこと)せんとする者に須要(しゅよう:もっとも必要なこと)なる教育をなすにあり。今や教育は単に教化なりとの時代は已(すで)に過去に属し、有なる教育は戦闘の叫喚なり。即ち学校は実務に従事し、若くは従事せんとする者に必要なる智識技能を授け、而して之を正しく運用して幸福なる生活を遂ぐるに足るべき性格を涵養して、生存競争に堪へ得る準備を凡ての者に為さしむるを必須条件とす。従ひて教授の実質に就きても妄(みだり)に高尚に奔(はし)らず簡潔にして実用に適し、而かも普通学の智識を拡充せしむるに必要なる教科を設け、且つ林業に関する各種の実習
 
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・見学は本校の最も重きを置く所にして、極学理と実地との関係を適応密接ならしめ、実際的の智識技能を修得せしむるに留意せり。而して実習は単に技術の習熟に止まらず、心身を鍛錬し堅忍の気風を養ひ精進行の慣習を助長せしむる等、品性陶冶の唯一の方便たるを忘るべからず。
今方(いままさに)実業道徳の弛頽(したい:ゆるみおとろえる)日に甚しく寒心に堪へざる者多し。之が救済は実業教育を外にして求むる能はず。然るを稍(やや)もすれば実業学校を以て単に智識技能を修むるの学府とし、人格の修養は以て之を他の種の教育に俟(ま:たのみにする)ち、其間画然たる区別を置くの弊あり。謬(あやま)れるの甚しき者と云ふべし。且つ方今(ほうこん:現今)の学徒は日常服膺(ふくよう:しっかりとおぼえて忘れないこと)すべき要道は既に業に知得せり。而して其多くは実践躬行(きゅうこう:自分みずから行う)せざるにあり。唯面従腹誹(めんじゅうふくひ:表面では従うようにみせて、内心では誹(そし)ること)漫然一時を糊塗(こと:ごまかす)して放逸に陥り、復(ま)た済(すく)ふ能はざるに至る。されば青の危期を善導するに此等の点に留意し、且諸外邦の例に倣ひ極検束を加へて個人性格の修養を促し、而して智識技能の啓発に努めて本校教養の精神を完(まっと)ふせんとす。学業を本校に修めんとするの士は此の趣旨を明にし、仰(あおい)で聖上陛下奨学の聖旨に副(そ)ひ奉り、出でゝは忠良の臣民として、入つては篤実の学徒として立身報国の基を立てん事を期すべし。
 
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