市街地の拡大と地価決定因子

503 ~ 506 / 1505ページ
 今までも何度か間接的ではあるが、市街地の拡大についてふれてきた。ここではその市街地の拡大と地価との関連性について考えることにする。具体的には戸数、宅地面積、人口密度などの変化をとおしてその様相を探り、地価等級の比較などから地価の相対的な動きを抽出し、それをさらに相対的に検討し、地価を決定する因子について説明できればと思う。
 まず戸数の増加については、明治15~17年、同22~23年、同30~33年の3つの増加期が認められる(『函館市史』統計史料編)。初めの増加期では台町、元町、谷地頭町、船場町、東川町、音羽町、真砂町がその地域にあたり、前述した地租改正後の官有地の払い下げ地と整合する。2度目は東川町、音羽町、真砂町であり願乗寺川の埋め立てとの関連が考えられる。最後は汐見町、東川町、宝町、海岸町、音羽町、大縄町、大森町、高砂町、若松町などで、鉄道事業などに影響を受けているのだろうか。
 次に宅地の増加については先の図4-10より、弁天町、台町、元町、汐見町、谷地頭町、東川町などが増加している。また、人口密度についても豊川町、真砂町、鶴岡町、若松町、海岸町、高砂町、音羽町、旅籠町、船見町、宝町、大縄町などが高くなっている。以上のことから、前段の大小区制を引用すれば14、16大区での市街地の拡大は確かに認められる。しかし人口密度からもわかるように、空間的な拡がりと人口の集積化との間に時間差を有することもまた留意する必要がある。
 さて、地価についての大きな動きを知るため、明治14年の地租改正時の地位等級表と同33年の特別区税建物割の基礎となる敷地の評定を重ねてみると、地価は総体的に海岸地区が優位にあること、町家地区では地価の高い場所が東へ移動していること、山の手地区でも地価が上昇していることなどが理解できる(表4-8・19参照)。ちなみに、明治31年に函館商業会議所の調査により、税務署と交渉して決めた土地標準価格は、1坪につき東浜町71円、西浜町、末広町65円、仲浜町、船場町60円、地蔵町大町45円、弁天町40円、恵比須町35円であった(明治31年4月22日「樽新」)。これが33年の等級表では大町地蔵町、恵比須町が同じ等級であり、弁天町はそれ以下に下降している。
 それではこの地価がどのような因子によって決められるのか、それを知るために作成したのが表4-14と図4-12である。その結果、地価は店舗数と倉庫数との相関関係が高いことが理解できるし、その店舗数についても高い数値の町が東へ移動していることも確認できる(『商工函館の魁』、『北海道実業人名録』)。しかし店舗数だけでは東への移動は説明できても、地価の最高値を持つ東浜町についての説明にはならない。ここで東浜町の持つ利便性について考えてみると「当地に入り込む旅客諸君は、この東浜町にて、即ち桟橋前の通りはこの町なり」(『巴港詳景函館のしるべ』)という点があり、交通機関の発達とともに当町も発展したことが推察できよう。つまり地価の決定因子として、店舗の集積度とともに交通機関の要所であることが考えられるのである。

明治初期の東浜桟橋 北大図書館北方資料室蔵

 
表4-14 明治26年時の町別地価決定因子
地区
町名
人口密度
地価
店舗数
倉庫数
(1)
東浜町
仲浜町
西浜町
幸町
豊川町
船場町
汐留町
61.9
11.5
54.1
107.4
51.3
18.2
106.3
50,058
35,122
26,456
11,897
46,735
83,814
13,564
63
22
27
14
20
30
5
23
18
12
5
21
23
8
(2)
弁天町
大町
末広町
地蔵町
36.5
68.1
63.8
114.3
69,881
92,425
176,457
46,498
26
28
120
52
58
36
72
21
(3)
鶴岡町
若松町
海岸町
65.6
52.6
22.1
38,846
22,924
12,932
27
7
1
11
12
(4)
大黒町
旅籠町
鍛冶町
富岡
会所

相生町
寿町
蓬莱町
西川町
恵比須町
138.8
72.0
130.5
76.1
46.1
84.5
132.9
84.
122.0
125.9
35,810
11,225
16,899
15,914
27,759
26,261
4,434
38,688
26,578
35,530
17
2
4
13
20
17
2
9
23
27
25

10
7
15
11

16
17
18
(5)
船見町
元町
青柳町
谷地頭
春日町
曙町
東川町
8.2
18.3
28.6
0.9
32.2
94.5
18.0
14,169
10,368
9,997
9,042
3,275
5,010
19,879
1
4
3
2
2
1
3
8
7
4


5
17
平均
標準偏差
66.0
41.5
33,498.2
34,606.2
19.0
24.0
15.4
15.9

『北海道実業人名録』、明治28年「函館町別倉庫調」により作成

 

人口密度


地価


店舗数


倉庫数


図4-12 明治26年時の地価決定因子