露領となってから、一度は出漁を断念した漁民も伊達・栖原を除いて熱心に出漁願を諸官庁へ提出し、ついに明治9年3月の太政官布告第25号「樺太島ニテ従来漁業営ミ居リ候者ハ旧漁場ニ於テ引続キ営業苦シカラズ」により出漁が可能となった。さきの開拓使人名調書にもれていた者も含めて11名の漁民が旧漁場に出漁した。函館が本籍の者、木田長右衛門、相原寅之助、宇野忠次郎、斉藤文右衛門、山口徳蔵の5名、函館に寄留の者、島崎秀吉、橋本六三郎、佐藤和右衛門、長野長十郎、近木吾一、永野弥平の6名である。これら漁民の系譜は、勝山藩・若狭藩関係者、加納藩関係者、松川弁之助一族、北蝦夷地出稼人・樺太御用達人にわけられる。出漁者は開拓使函館支庁外事課で航海公証を請い受け、函館税関の積荷検査をへて開港場である函館港を出帆するが、税関の出入港手数料および輸出入物品税はすべて免除されていた。函館港を出帆した船舶は交換条約により日本領事館が設置されているアニワ湾内のコルサコフ港に入港して、日本領事館に立寄り諸届出手続きをした上で漁場許可状の付与を受け、露領となった漁場で明治9年より明治36年までの28年間、漁業を営んだのである(表9-53樺太島出稼漁業一覧表参照)。
ロシアが日本漁民の出漁にどのように対応したかを、課税および漁場規制方法の態様により、9年から15年までの第1期、16年から30年までの第2期、31年から36年までの第3期にわけてみることにする。
表9-53 樺太島出稼漁業一覧表
年代\事項 | 漁場主数 | 漁場数 | 投網数 | 積取船数 | 漁夫 水夫数 | 漁獲 | |||
石数 | 内訳 | 金額 円 | |||||||
明治9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 | 13 13 17 17 25 28 22 19 10 6 12 12 12 16 15 17 18 21 20 20 25 36 44 52 38 37 35 30 | 16 22 22 27 26 30 30 12 12 9 17 24 28 44 41 51 59 64 71 84 116 158 192 222 126 117 107 99 | 26 30 43 44 51 68 71 71 30 27 34 42 53 66 65 72 83 89 97 111 151 213 234 244 126 不明 不明 不明 | 25 24 27 42 50 64 67 66 19 19 22 30 33 47 41 47 46 60 86 71 92 124 125 116 84 115 96 120 | 46 18 36 31 35 31 13 6 10 9 12 10 18 12 12 21 25 22 21 20 24 23 23 23 27 30 2 41 42 2 47 21 2 54 28 10 105 19 84 38 62 52 8 29 45 8 40 67 7 25 64 10 29 81 | 530 586 614 944 1,121 1,455 1,580 1,546 475 470 606 919 1,127 1,245 1,318 1,423 1,495 1,572 1,967 2,157 2,787 3,858 4,424 4,346 2,917 3,487 3,704 3,931 | 3,114 10,696 8,034 18,344 23,967 23,420 34,917 20,433 3,029 6,693 9,581 21,800 23,566 27,804 19,316 11,127 26,308 28,807 31,884 33,992 41,635 59,476 50,510 77,602 57,357 68,670 84,584 113,942 | 1,448 1,666 1,261 9,435 3,367 4,667 1,973 16,108 不明 20,191 2,930 不明 14,265 8,006 869 21,206 13,201 135 12,842 7,444 不明 132 2,897 不明 不明 不明 10,876 12,690 17,328 10,329 83 4,717 14,133 465 2,379 5,901 2,844 2,517 20,472 3,318 7,024 16,765 4,919 5,915 17,221 8,748 7,620 19,716 6,657 19,392 10,125 12,093 8,520 34,247 16,592 6,336 11,229 32,609 8,380 22,959 45,727 7,719 8,697 40,722 3,089 12,626 52,192 2,224 18,369 61,564 2,566 16,906 90,252 | 20,784 52,424 46,886 117,467 199,015 207,590 300,898 85,006 12,115 30,119 42,158 122,078 134,125 188,569 105,528 65,995 150,086 182,495 241,744 330,070 584,618 797,745 689,133 1,097,333 796,185 808,930 846,139 1,192,404 |
注1、「コルサコフ領事館報告」より作成
2、9年の漁場主数が本文の数字と一致しないのは、この統計表の漁場主数には代理人の人数が含まれているからであろう
3、積取船の欄の左の数字は合計、右は内訳で、上段より日本形、西洋形、汽船の順である、内訳と合計が一致しない年次は、川崎船の使用があったことを表わす
4、漁獲内訳は、上段より鮭、鱒、鰊締粕の順である.