北部の常盤川・石川流域は、標高一〇から三〇メートル程度の河岸段丘面に、縄文時代前期・中期の大集落跡であるサイベ沢遺跡を始めとする遺跡群が存在している。特に中期の円筒式土器の時期は密集度が高いものとみられ、安定した集落が数多く形成されていたことが考えられるが、早期や後期などの時期のものは少数ということができる。これは、海岸線からやや内陸へ入ったこの地域では、早期のように生業とみられる海産物類の獲得に支障があったためなのであろうか。少なくとも前期および中期の時期の集落形成にとっては、適していた場所であったことは疑いない。
市内中央部を北から南へ流れる亀田川流域では、標高五〇から九〇メートルとやや小高い丘陵上に、縄文時代中期後半を主体とする集落跡がいくつか存在している。また、下流域の底位面には縄文時代早期後半から末頃の遺跡もみられる。この区域の遺跡の立地傾向としては中期が主体とみられ、早期および晩期や続縄文時代のものもいくらか存在しているが、前期や後期の遺跡についてはかなり希薄な状態となっている。
図1・2・1 函館市内の先史時代遺跡分布図
図1・2・2 函館空港遺跡群の分布図
表1・2・2 函館空港遺跡群の分布一覧
№ | 遺 跡 名 | 主 な 時 期 | 種別・内容 | 備考 |
① | 函館空港第1地点 | 縄文時代早期・擦文時代 | 遺物包含地 | 昭和42年発掘調査(空港整備) |
② | 函館空港第2地点 | 縄文・続縄文~擦文時代 | 遺物包含地 | 昭和43年発掘調査(空港整備) |
③ | 函館空港第3地点 | 縄文時代 | 遺物包含地 | 昭和43年発掘調査(空港整備) |
④ | 函館空港第4地点 | 縄文時代前期 | 集 落 跡 | 昭和42 ・ 49年発掘調査(空港整備) |
⑤ | 函館空港第5地点 | 縄文時代 | 遺物包含地 | 昭和43年発掘調査(空港整備) |
⑥ | 函館空港第6地点 | 縄文時代早期 | 遺物包含地 | 昭和43年発掘調査(空港整備) |
⑦ | 函館空港第7地点 | 縄文時代 | 遺物包含地 | 昭和43年発掘調査(空港整備) |
⑧ | 函館空港第8地点 | 縄文時代 | 遺物包含地 | 昭和43年発掘調査(空港整備) |
⑨ | 函館空港第9地点 | 縄文時代 | 遺物包含地 | 昭和43年発掘調査(空港整備) |
⑩ | 函館空港第10地点 | 縄文時代 | 遺物包含地 | 昭和43年発掘調査(空港整備) |
⑪ | 中 野 A 遺 跡 | 縄文時代早期~前期 | 集 落 跡 | 昭和50 ・ 51,平成3・4年発掘調査(空港整備) |
⑫ | 中 野 B 遺 跡 | 縄文時代早期 | 集 落 跡 | 昭和50,平成4~8年発掘調査(空港整備) |
⑬ | 石 倉 貝 塚 | 縄文時代後期・続縄文時代 | 盛土・配石 | 平成6~8年発掘調査(空港整備) |
⑭ | 赤 坂 1 遺 跡 | 縄文時代 | 遺物包含地 | 未調査 |
⑮ | 赤 坂 2 遺 跡 | 縄文時代前期 | 集 落 跡 | 未調査 |
⑯ | 根 崎 遺 跡 | 縄文時代早期 | 墳墓 | 昭和39年発掘調査(公園造成) |
東部の松倉川と支流の湯の沢川や湯の川流域の段丘面には、縄文時代中期後半から後期、晩期から続縄文時代、さらには擦文(土師)時代にわたる遺跡の分布が知られている。これらの中には、標高八〇メートル程度の台地上に広がる縄文時代中期後半の集落跡、また河岸段丘の縁には中期末から後期初頭頃の貝塚、そして海岸線近くの低位面には、土師式土器の遺跡が存在するなど、色々な要素があり、変化に富んだ傾向を示している。