尻岸内町史には、この戸井線の延長に関する資料(請願)が記されている。
一、国有鉄道戸井線延長に関する件
〈理由〉
戸井線ハ函館戸井間ノ鉄道ニシテ昭和十一年着手同十四年度開通ノ路線ナルガ、更ニ本村字古武井迄延長セントスルモノナリ。
当地方ハ道内有数ノ好漁場ニシテ殊ニモ鰮(イワシ)・昆布・柔魚(イカ)ノ産額多ク又農鉱林ノ資源ニ富有ナル経済線タリ。而シテ古武井迄延長スルニ於イテハ、ソノ利用区域タルヤ、戸井村ノ一部・尻岸内・椴法華・尾札部ノ全村及ビ臼尻村ノ一部即チ五ケ村、約三百平方粁ノ広大ナル区域ニシテ生産総額二百五十万円ニ達ス。尚、延長セントスル区域ハ要塞地帯ノ第二区及ビ第三区ニ属シ、鉄道ノ延長ハ軍事上ヨリスルモ誠ニ急施ヲ要スル次第ナリ。
然モ、戸井ハ地勢並ビ要塞施設ノ関係上、終点トシテ各種ノ設備ニ困難ノ地ニシテ、戸井線ヲ本村字古武井迄延長スルニ於イテハ、終点トシテ施設ヲ完備スルコトヲ前記ノ関係ト相俟ッテ、急速延長ヲ必要トスル次第ナリ。
〈経過〉
昭和十一年五月三日、関係方面へ請願せり。
昭和十三年二月十八日、請願書、貴族院衆議院両院に於て可決せらる。
昭和十三年七月末、北海道建設事務所より経済調査に来村。
戸井線の古武井までの延長請願については、昭和13年、貴族院・衆議院の両院に於て可決され、その年、北海道建設事務所より経済調査に来村している。
この請願書の文面を読む限り、戸井線延長の理由が、実に理路整然と説明され、内容的にも納得のいくものであったことが頷けるが、更に付け加えるならば、可決の重要な要件の1つが資源にあったのではないかと推論する。請願書〈理由〉の文面で「……鰮(イワシ)・昆布・柔魚(イカ)ノ産額多く又農鉱林ノ資源に富有なる経済線たり」とある。農鉱林の「鉱」については「硫黄・砂鉄」を指し、とりわけ砂鉄は村内の中浜から女那川・日ノ浜から高岱にかけての豊富な埋蔵量はよく知られていた。鉄材がいくらあっても足りない戦時下である、当然、論議された筈である。
いずれにしても貴衆両院の可決・北海道建設事務所の調査来村は、戸井・尻岸内・椴法華村の悲願、戸井線古武井までの延長を決定付ける朗報となったのは事実であろう。