医薬の発達がおくれていた明治の初期において、病人の体力増進のために肝油の効果は渇望の的であった。
当時、良質の肝油の入手は、舶来品に頼っていたので、江戸時代の朝鮮人参と同じように高価であった。
病人はもとより、医薬にたずさわるものは、鱈の肝油(肝臓)が極めて成分がよいことを知り、国内で純粋な肝油を製造したいと考えられた。鱈釣り漁で有名な六か場所の村で、鱈肝油の製造を試みる計画がすすめられ、官業によって産業開発をすすめていた開拓使の事業に鱈肝油の製造が組み入れられたのは明治一〇年であった。
明治のはじめ、北海道の産業開発に力をいれた開拓使が、各地に開設した官営の工場は次のように多種多様のものであった。
明治 4年 札幌 篠路醬油醸造所
5年 札幌 蒸汽器機所・鍛工所
函館 製革所・煉化石瓦製造所・石灰製造所
6年 札幌 水車器械所・鋳造所・製紙所・製粉所
函館 製紙場
7年 札幌 室蘭器械所
8年 札幌 木工所・製油所・豊馬具製造所・製革場・製綱所・製糸所
9年 札幌 度量衡三器・鉄物製造所・葡萄酒醸造所・麦酒醸造所
根室 鮭燻製所
10年 札幌 醬油醸造所・味噌製造所・罐詰製造所(石狩)・機織場
函館 水車場・鱈肝油製造所
根室 昆布乾燥所
11年 札幌 製煉場・罐詰製造所(美々)
函館 馬具鉄器製造所
根室 罐詰製造所(別海)・魚粕製造所
12年 札幌 製鉄器械所・味噌醬油製造所
函館 製煉所・燧木製造所
根室 罐詰製造所(紗那)
13年 札幌 厚別山木挽器械所
根室 罐詰製造所(厚岸)・木挽機械所・製革所
(「新北海道史」第三巻)
明治期には、村々にも官営・民営の工場が大いに奨励されて開設をみた。
砂原村燐寸軸木製造所
職工
男工 女工
今井作太郎 明治28・ 7 一四 一二
鈴木治兵衛 〃 8 六 七
高谷嘉平 〃 9 八 六
岩城万蔵 〃 11 八 六
鹿部村燐寸製軸場
高野司馬蔵 明治27・ 3
三浦儀助 〃28・ 9
このほか、尾白内村に二ヵ所、宿野辺村に六ヵ所、福島村に一ヵ所というように、小工場の普及がみられた。