藩主の行列と出会った際の農民のとるべき態度については、本章第一節五(一)で触れた。参勤交代のみならず、そのほか領内の寺社参詣や視察などによる藩主の行列へ農民が出会った場合には、次のような態度をとらねばならなかった。すなわち、男は土下座(どげざ)し額を地面につくほどにして、女も同様に冠物(かぶりもの)をとり片手をつき頭を下げて、敬意を表さなければならなかったのである(『御用格』寛政本 第一二「被仰出之部」)。これも本章第一節五(一)で触れたが、城下の町屋では、町人が門戸を閉鎖し隠れ、藩主の行列の最後尾が完全に通過し終わった時に、やっと自由になったのであった。これに対し、農民が田圃の道路や集落内の道路で藩主の行列と出会った時には、町屋のような隠れる場所がなく、このような敬意の表し方が求められたのであろう。