昭和初年の弘前の工業生産

78 ~ 81 / 965ページ
昭和四年(一九二九)に、第三回青森県工産物品評会が弘前市で開催された。この品評会は、青森県商工連合会と弘前商工会の共催であった。弘前商工会議所会頭の宮川忠助は青森県と弘前市の製造業につき、調査・研究を行っている。それにより、この時期の弘前市の製造業の実態を見ておこう。
 まず、昭和元年(一九二六)時点で、北海道と東北の諸県の産業別生産額を比べると、北海道および各県ともに、工業生産の位置が高まっていることがわかる(表2)。
表2 東北諸県および北海道における産業構成の比較(昭和元年)
 北海道宮城県福島県山形県岩手県秋田県青森県総計
 万円万円万円万円万円万円万円万円
農産11,4118,79210,0727,1925,8867,6725,15856,184
工産16,9163,0898,7874,7263,1712,5462,64841,883
鉱産4,465131,695766552,312109,226
林産2,9755521,1875601,8792,98490811,045
水産11,0691,6723521341,45921885815,762
畜産1,3252745762263763243073,408
48,16114, 39222, 66912, 91413, 42616,0579, 889137, 508
宮川忠助「第三回青森県工産物品評会の開催を前にして」『弘前商業会議所月報』210、昭和4年より

 次に、青森県内の市郡別の工産物の内訳を比較する(表3)。弘前市は、三戸郡、青森市に次ぐ工業生産高であり、酒・味噌・醤油醸造業、木製品、麺類・菓子類製造業などの産額が多い。また、織物業の産額がこれに続く。宮川忠助は、全体として次のように評価している。
表3 青森県工産品価額市郡別(昭和2年)
 弘前市青森市東郡西郡中郡南郡北郡上北下北三戸
織物
341,461-----7,5278,1541,257,144
漆器及漆液150,2001,550---4,9797,1506,000-33,350203,229
油類、蝋燭、石鹸30,027113,745--122,574-980--1,044268,370
酒、味噌、醤油1,749,715617,534360,164507,8451,192,3951,357,40548,567756,962158,0562,096,3309,282,078
藁細工、竹、柳、籘蔓細工18,44649,987243,873223,329228,9271,480,385270,71558,3009,971220,5732,804,612
麺類、菓子類339,500281,83889,89060,28011,20048,520120,88552,69031,470360,3771,396,650
澱粉2602,402---6,552----9,214
缶詰55,0001,051,572-660--2,4131,50024,280115,4041,250,829
木製品894,670892,16343,59533,12022,370123,93085,21158,3007,150731,4652,891,974
3,50034,947-9005,0001,700500200-3,45050,197
硝子製品、煉瓦、土管、陶磁器--66,1504,500600390---5,85077,490
其他雑工品1,199,9072,885,013346,062224,463293,681168,521142,40489,14344,0282,951,6038,344,827
4,782,6865,930,7511,149,7341,055,0971,876,7473,192,3821,115,9301,030,630274,9556,527,60226,936,514
宮川忠助「第三回青森県工産物品評会の開催を前にして」『弘前商業会議所月報』210より

 近年度に中央に開かれた博覧会等の出品を見るに、当弘前の工産物は其主要部分を形成して居る様であるが、夫れとても、対外輸出品として其産額の甚だ微々たるものである、例之木通蔓の如きは、遠く海外に輸出せられて居るが、原料の関係上大なる発展を期待する事至難でなかろうか、織物としては最近英ネルの如き、北海道、東京方面に売行良好であるが、現在の製造能力では、其注文に応じ兼ぬる状態にある、殊に津軽塗の如き、三百年来津軽の馬鹿塗として全国に其声価を博し、其素質と品位に於て、決して富山(ママ)の輪島塗などに遜色なきものであるに拘はらず、其発展の見るべきものなきは大に考慮を要する点である、又金物の如き或は雑工品中にて近時長足の進歩を呈し産額を増加しつゝあるが、未だ県外輸出の大特産品として見做す事ができない。
 斯く当弘前の工産物中県外輸出品として真価を有するもの多々あるのであるからして、其製造組織と経営、販売方法等を合理化せしめ、一段の奮闘努力をなすならば、将来の発展大に見るべきものあると思ふのである、これに対し県及市当局の指導後援及其他の産業助長施設に俟つべき物多々あると思ふが、これらは後日の研究に譲る事とする。
(『弘前商工会議所月報』二九〇)

 弘前の工業製品は品質に優れ、県外に輸出されているにもかかわらず、生産の拡大が可能な状態にないことが指摘されている。