青森県工業試験場

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青森県は、明治四十年(一九〇七)から染織に関する技術員を採用し、染色業の指導奨励のため、県内各地で講習会を開催して啓発に努めていた。だが、時代の要請はそれだけでは不十分になってきたため、大正十一年(一九二二)、県は地場産業振興を目的として、県内で染織の最も盛んな弘前市に工業試験場を設立することにした。設立当初は、機織部・染色部・化学部・庶務部の四部で業務が開始されたが、大正十五年には酒造組合などの要望を取り入れて醸造部を併置し、昭和三年(一九二八)になると化学部と醸造部を合併し、化学醸造部とした。さらに、起毛機を設置し、同年五月から綿ネルの製造を始めるなど業務を拡張していった。六年には工場を新築して、漆器・木工・竹蔓細工の指導を行うようになり、十一年には窯業部を新設した。試験場各部に関係する各業者は、事業改善のため試験場を利用した。たとえば、酒造業では津軽米の使用を試み、全国品評会において優賞を得た。また、醤油醸造業においては、タンクを設置して保温設備をすることで熟成期の短縮を図り、造石高は年々増加して、県外移出も増加した(『青森県工業試験場要覧』青森県工業試験場、一九三九年および前掲『青森県総覧・復刻本』)。
 そこで、ここに『昭和十四年青森県工業試験場要覧』から業務内容を示そう。
      一 染織部
(イ)織物の指導   絹、綿、麻、毛織物、ステーブル、人絹、代用繊維、織物の実地指導、依頼製織、設計、講習講話、審査鑑定、研究生養生

(ロ)織物の試験研究 機織工場に広幅及ひ小幅力織機を設備し地方向並に移輸出向織物の試験研究を行ひ地方織物業者の進歩向上を計る

(ハ)染色の指導   絹、綿、麻、ステーブル、人絹糸布、代用繊維、あけび蔓竹、兎毛浸染、捺染、整理、加工、実地指導、講習講話、鑑定、研究生並に練習生の養生

(ニ)染色の試験研究 染色工場に染色、整理、加工設備を有し染色試験、研究並に依頼染色整理加工を行ふ

      二 化学醸造部
(イ)化学の指導   一般応用化学製品、化学薬品、鉱石、石炭、粘土類の分析鑑定・指導

(ロ)化学の試験研究 化学部に分析試験室を有し前記化学に関する依頼試験研究を行ふ

(ハ)醸造の指導   清酒、醤油、味噌、酢、其他一般醸造物の実地指導、分析鑑定、審査、講習講話、質疑応答、研究生の養生

(ニ)醸造の試験研究 醸造工場にて醤油、味噌、種麹製造払下、醤油、味噌、ソース、アミノ酸、調味品の試験研究酒造米の依頼精白を行ふ

      三 工芸指導部
(イ)工芸の指導   漆器、木工、あけび蔓細工、木竹総合品、玩具土産品の試作、実地指導図案、調整、一般工芸に関する質疑応答、講習、講話、審査、研究生並に練習生の養生

(ロ)工芸試作研究  指導部工場に漆器、木工に関する設備を有し、一般工芸品の試作見本、製作研究を行ふ

      四 窯業部
(イ)窯業の指導   陶磁器並に原料、釉薬(〔うわぐすり〕)に関する実地指導、講習講話、質疑応答、審査、研究生並に練習生の養生

(ロ)陶磁器試作研究 窯業工場に於て陶磁器試験、試作依頼製作、製品の払下を行ふ

      五 工業相談部
(イ)工業の相談   一般工業の相談、地方工業の発展、新規工業の助勢、工業資源の開発に関する事項並に工業知識の普及、工場経営、工場法規、経済事情の調査を行ふ

(ロ)相談の方法   来場相談又は文書の相談に応し、相談内容は秘密を守り、殊に発明、特許商標意匠に対しては提出者の権利を保護し、相談上必要ある場合には職員を派遣す

(ハ)相談の手数料  多額の経費を要する以外一般の相談に就ては、一切手数料を徴収せす

      六 庶務部
(イ)場内の事務   会計庶務、事業経理、物品保管、其他一般場務の経理

(ロ)対外事務    文書収発、物産の紹介宣伝、試売製作品払下、展示会即売会開催

 このように、工業試験場と連携をとることで、弘前市の地場産業は発展していくのである。