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札幌水電の事業

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 表15に札幌水電による電力供給状況をまとめた。各戸灯火用の戸数を見ると、四十二年は先に述べた北海電気時代の一一一二戸から一三一六戸に増え、翌四十三年には倍の二一九〇戸に、その後も年々増加している。札幌水電による消費電力の全道にしめるシェアは二〇パーセントを超える水準にまで達した。表の最終年である大正十一年は、明治四十二年の約二四倍となっており、電灯用電力供給は順調な伸びを示しているといえよう。動力用電力は北海電気との比較がしにくいが、四十二年を基準とすると翌年三倍化、大正三年には一二倍化を果たし、表の最終年である大正十一年には明治四十二年の約六七倍となっているのである。ただし、全道の動力用電力にしめるシェアは四十四年以降一パーセント台で推移し、大戦期にやや比率が高まるものの電灯に比べると格段に低い。これは、王子製紙株式会社が大量の電力供給を行っていたためである。
表-15 電灯と電力
公共灯火用各戸灯火用動力用合計
点灯数消費電力
(kw時)
戸数消費電力
(kw時)
全道比
(%)
消費電力
(kw時)
全道比
(%)
消費電力
(kw時)
全道比
(%)
明421144,1081,316399,6277.2106,19911.1509,8547.7
 432,1901,724,33624.5304,9477.82,029,28318.5
 4425538,5562,6952,107,15423.3409,6701.02,555,3805.1
 451,00072,0004,7592,202,86820.0544,8801.12,819,7484.6
大 23,256196,1018,5632,489,26017.8834,9071.13,520,2684.0
  33,503216,9159,4392,582,14917.11,243,1741.64,042,2384.2
  43,22036,13411,2952,550,91020.02,418,1072.85,005,1515.0
  54,313198,55013,6252,596,46615.62,801,1392.45,596,1554.2
  64,757448,19315,1903,156,36918.13,239,5762.76,844,1385.0
  75,410679,23017,3654,590,44020.03,618,5793.08,888,2496.1
  86,765407,83619,0913,330,82515.24,851,7183.88,590,3795.7
  97,835599,09921,0755,349,61016.94,604,3084.110,553,0177.3
 109,105731,89276,0415,998,94519.66,356,9693.513,087,8066.0
 1110,6221,036,71098,7469,650,34116.77,062,3933.017,749,4446.1
1.明治41年の公共灯火用点灯数は「街灯基数」。
2.『北海道庁統計書』(各年)より作成。

 動力用電力の契約は、大正元年において鉄道院札幌工場八〇〇馬力、札幌製粉一〇〇馬力などが大口であったが、この時点で帝国製麻、大日本麦酒は未契約で、自家発電によっていた(北タイ 大1・10・22)。大正二年末における用途別電力装置は、製粉用二五三馬力、精米並精麦用一九九馬力、木挽用一二四馬力、酒造ポンプ用六五馬力、水揚ポンプ用六一馬力、印刷用三七馬力、鉄工用二五馬力、牧草圧搾用二五馬力などであった(札幌水電 第十一回営業報告書 大正二年自七月一日至十二月三十一日)。札幌の製粉、精米・精麦、木材、酒造など家内工業を含む軽工業の需要が多かったのである。
 表16に電力需要家の状況をまとめた。電力需要家数は、明治四十四年の一〇四戸から大正十一年の六九五戸へと増加している。電動機馬力数の大小を見ると、一馬力以上五馬力未満層がもっとも多く、次いで一馬力未満層が多い。電動機がもっとも普及している十一年において、八五九台のうち六七六台(七八・七パーセント)が五馬力未満の小電動機である。ちなみに大正十一年末における用途別電力装置は、木工一〇八一馬力、鉄工五三七馬力、精米及精麦四三〇馬力、発電三七八馬力、製粉二八二馬力、水揚一七二馬力、鋳鉄一一八馬力、綿打一〇七馬力などとなっている(札幌水電 第二九回営業報告書 自大正十一年六月一日至十一月三十日)。大正二年末に比べ発電、鉄工、鋳鉄などの重工業分野が伸びているが、一方で精米・精麦、綿打などの家内工業需要も健在である。発電用需要とは、「電気事業者タル需要者」とされている札幌鉄道局列車電灯所、帝国製麻札幌製品工場、札幌電気軌道、大日本麦酒札幌支店の分であり、自家発電装置をもっていたのであろう。
表-16 札幌水電の事業
電線延長(哩)需要家数
電灯(戸)
需要家数
電力(戸)
需要家数
電灯総燭光数
需要家数
電力総馬力数
需要家数
電動機数
うち
10馬力
以上
5~10
馬力
未満
1~5
馬力
未満
1馬力
未満
明44181.52,695104202,61540911416135926
大 2279.98,563180379,23683318420188165
  3316.79,439192436,2471,23021435177983
  4362.611,275224513,6961,386256371810794
  5393.513,625257614,2891,6222934818121106
  6442.615,190295709,3881,8173395419132134
  7493.217,365372853,9742,2244265939169159
  8678.119,091431969,2422,4375076139225182
  9803.121,0765371,205,8193,0766487947282240
 10918.823,8696121,503,4283,3197278169300277
 111,018.626,7536951,803,4543,8088599390351325
1.明治44~大正7年は12月31日現在。大正8~11年は11月30日現在。
2.逓信省電気局『電気事業要覧』(各年),札幌水力電気株式会社『営業報告書』(各期)より作成。

 札幌水電の供給区域はどのようであったのだろうか。表17に一覧を示した。当初札幌区、豊平町、札幌村を区域として営業を開始したが、藻岩村は大正三年上半期から、琴似村は四年下半期から、白石村は八年上半期から、篠路村、石狩町は八年下半期から、厚田村は十年下半期から供給区域に加えられている(札幌水電 各期営業報告書)。電灯においては、供給区域に編入されてすぐに村内各戸に相当の普及をみたことがわかる。それに対して、電力供給はあくまでも札幌区が中心であった。札幌水電の事業展開は、大正期において農漁村電化(電灯用に限るが)をも推し進めるものであったのである。
表-17 札幌水電供給区域 (戸)
 札幌区豊平町札幌村藻岩村琴似村白石村篠路村石狩町厚田村合計
電灯需要家数明442,59310022,695
大 28,385157218,563
  410,715253182527311,275
  614,25929127210726215,190
  816,9784525711472613112434719,091
 1020,31663783824940143380551364 23,869
電力需要家数明441041105
大 21782180
  421464224
  628375295
  8390365431
 1054354771612
札幌水力電気株式会社『営業報告書』(各期)より作成。

 札幌水電の営業成績はどのようなものであったのだろうか。表18をもとに検討してみよう。資本金は創業以来大正七年まで変わらず、八年に一挙に二二五万円に引き上げている。これは、後述する第二発電所建設による供給力増強に備えてのものである。毎期利益金を計上しており、表には一年分を合わせて表示しているが、金額も年々伸びている。業績不振のものが多く見受けられた札幌の他企業に比べて格段の違いである。収入では当初「電灯を目的として設立された」といわれたように、電灯収入が圧倒的に多かった。ところが電灯収入と電力収入の差は徐々に縮小し、大正九年以降では、電力収入は収入合計のおよそ二二~二八パーセントにまで達している。九年から第二発電所が運転を開始しており、電力供給力が向上したことが窺われる。
表-18 札幌水電の営業状況
明44大234567891011
資本金750,000750,000750,000750,000750,000750,000750,0002,250,0002,250,0002,250,0002,250,000
払込資本金300,000300,000300,000300,000345,000450,000750,0001,125,0001,350,0001,350,0001,929,250
固定資本金559,038606,130600,600611,920595,059573,856721,715978,3242,500,2472,584,3892,902,659
社債120,000106,00095,00084,00034,000189,000690,000680,000670,000660,000350,000
借入金150,000150,000150,000150,000150,000150,000310,000304,567358,083491,446484,312
積立金19,41044,34060,24087,316114,71685,516101,466169,349204,577255,473392,831
利益金50,03155,53857,66669,32073,67186,092125,372167,696254,773383,303384,206
払込資本金利益率(%)16.718.519.223.121.419.116.714.918.928.419.9
収入電灯144,692164,801177,840202,599236,163270,305335,936372,504550,205671,772812,639
電力24,78430,67338,25247,20856,29467,69086,227121,833223,968245,370313,810
その他5,7388,38411,60911,4919,40221,59249,41631,20130,77328,926
合計169,476201,212224,476261,416303,948347,397443,756543,796805,374947,9161,155,374
支出発電所変電所運転費12,77810,77612,39312,53516,40711,80116,76915,24236,15842,98768,203
電線路修繕維持費7,03612,0989,87741,32528,81630,26448,95566,83795,48597,705103,509
需要者屋内工作物維持費1,3857108861,7891,6461,5561,4212,9222,8702,791
その他電気事業41,84377,50994,175137,350183,265217,594251,102292,600389,737421,052596,665
その他の事業57,78843,90649,655
合計119,445145,674166,810192,096230,277261,305318,382376,100550,602564,614771,168
1.積立金は「法定積立金」「別途積立金」。
2.大正4~5年の発電所・変電所運転費は,「発電所維持費及運転費」と「変電所維持費及運転費」の合計。また電線路修繕・維持費は「送電線路修繕維持費]と「配電線路修繕維持費」の合計。
3.大正4年の支出に「電力料」の項目が新設されており,本表ではその他電気事業に含めた。原資料の大正3年以前ではその他の事業に含まれていた可能性がある。
4.逓信省電気局『電気事業要覧』(各年),札幌水力電気株式会社『営業報告書』(各期)より作成。