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普通選挙の実現

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 最初の市会議員が任期満了となる大正十五年(一九二六)十月三日、第二期議員の選挙が行われた。その前年、衆議院議員選挙法は護憲三派内閣によって改正公布され、デモクラシー運動の長年の目標であった男子普通選挙制がついに実現した。時の内務大臣若槻礼次郎は帝国議会で、普選が政治の民主化を意味するものではないと発言したが、選挙権から納税資格がなくなり、満二五歳以上の男性に広まり、したがって一、二級別選挙は廃止され、立候補届出制に変わる等、画期的な改正である。これによる札幌市会議員選挙は浜松市に次ぐ二番目で、全国から普選の前途を占うものとして注目を集め、「全市を挙げて普選の興味に沸騰した」(北タイ 大15・10・5)わりには、棄権率が二〇・九パーセントと多かった。
 新制度のもと、大正十一年の第一期市選時より約二倍となった新有権者が、どのような判断を示すかが最大の関心事になった(表7)。議員定数三六に対し立候補は六〇人で、一・七倍であるが、その内三七人が新人で、前・元議員の再出馬は二三人である。選挙の結果、新人二〇人が当選したのに、前・元議員は一六人にとどまり、前回に引続き有権者の拡大が議員の大幅な交代をもたらしたのである。
表-7 市会,道会,衆議院議員選挙の有権者数
市会道会衆議院備考
大1112,733人2,810人4,273人市会1期選
 125,2635,240
 1315,2935,5575,615市会1期再選
 145,9216,017
 1523,1515,9325,677市会2期選(普選)
昭 224,89024,89026,849
  325,76625,76627,659
  426,35126,35128,073
  527,12027,12029,138市会3期選
  627,59827,59829,618
  727,80527,80430,192
  829,07529,07431,412札幌村編入後の市会29,977人
  931,19331,19233,433市会4期選
 1031,92232,16135,569
 1132,57132,80435,999
 1233,34033,33936,482
 1333,03833,03835,850市会5期選
 1432,40132,40135,577
 1534,24234,24236,590円山町合併後の市会36,605人
 1636,32436,32441,392
 1737,94737,94742,349市会6期選
 1837,72637,72641,269
 1936,90036,90039,820
 2040,5119月15日現在
1.「-」欄は該当選挙がなく,調査がなされていない。
2.昭和20年11月1日現在,市会,道会,衆議院とも112,196人。
3.各年『札幌市事務報告』より作成。

 次に政党色が前回よりさらに明白になってきたことが注目される。札幌市会を政党論争の場にすべきでないとの意見が根強く、「市政の政党化は最も忌むべきところ、札幌市が兎も角、過去四ヶ年間相当の仕事をして来たのは、横暴派なるものがなかったからだ。この意味で市政に絶対多数の横暴派を造るといふことは、市民として是非之を避けねばならない」(北タイ 大15・10・3)という主張がある一方で、憲政会(実業青年会)候補は自党の立場を市民に正面から訴え、二三人中一六人が当選し、新市会の最大勢力を形成することになる。政友本党五人、政友会三人は、前回公友会が得た五議席を上回り、中立の立場にあるとする議員に公友会系の者が多数含まれるといわれる。これらを全体的に捉えれば、普選になったから市会構成がさま変わりしたのではなく、「大体に於て従来と異なるところなく、軍用金の豊富なる者は比較的容易に当選し得ることは明らか」(北タイ 大15・10・6)と評された。
 とはいえ、二つの点で明らかな変化をみせた。第一は札幌市民に多いサラリーマン層の票をいかに獲得するか、その代表者を市会に送ることができるか否かで、鉄道局や道庁職員の当選者は今後の選挙の方向を示した。八〇〇票を有する道庁では二人の候補を立てながら、一人が最下位でしか当選しなかったのは、候補が奏任官という上級議員で、判任官以下多数を占める下級職員の支持を得られなかったためとみられる。道庁下級職員をはじめとするサラリーマンが有権者分布の中間層に位置付くことが明らかになった。
 第二は労働者層が選挙に大きな力を持つことが実証されたのである。第二位の高得票で当選した「田中好雄君の出現は全く普選のお陰である。同君は鉄工場の純然たる筋肉労働者であるが、平素の同君の同僚間に於ける信望は一致して同君に立候補せしめ、専ら言論戦によって終始」(北タイ 大15・10・6)することにより議席を得た。
 このように、日本で二番目に普選を体験した札幌市の有権者は、知識層もしくはインテリ層と呼ばれるグループと、サラリーマン層、労働者層の三グループを形成し、政党が各グループの支持をどのように獲得していくかが、市会構成の鍵になっていった。