予算書を見るとわかるように、たとえば大正十四年と十五年をみると土木関係の予算額は二四万円余が五四万円弱まで二・五倍弱になる。表12を見ると実はこの増額が、下水道整備事業用に二一万円余の
市債を発行して賄われていることがわかる。大正十五年から始まる下水・側溝の整備、上水道の整備事業等、多くの土木事業の費用は、国や道からの補助金に加え、このような
市債発行で賄っていたのである。しかし日華事変以降の
市債発行は、それ以前の
市債を借り替え発行したものがほとんどとなり、新たな事業は昭和十三年の上水道配管拡張工事、十四年と十七年の
都市計画事業、十八年の
都市計画事業伏籠琴似緑地設営費の四件だけである。日華事変以降の非常時というお題目は、地方行政に大きく影響していたのである。
年度 | 起債の目的 | 借入額 | 利率 | 借入先 | 償還終了予定年度 | 償還完了年度 | 備考 |
昭元 | 下水道建設資金 | 218,000.00円 | 5.4% | 簡易保険局 | 昭25 | 昭 8 | 5ヵ年継続事業(側溝施設)第1次年度として |
2 | 下水道建設資金 | 309,000.00 | 5.4 | 簡易保険局 | 25 | 8 | 前記継続事業第2年度として起債したもの |
3 | 下水道敷設資金 | 327,000.00 | 5.4 | 逓信省 | 25 | 8 | 前記継続事業第3年度として |
3 | 下水道敷設資金 | 123,900.00 | 5.4 | 逓信省 | 25 | 8 | 前記継続事業第3年度として |
4 | 伏篭川改修費 | 38,800.00 | 6.8 | 北海道銀行 | 6 | 7 | |
4 | 下水道敷設資金 | 277,900.00 | 5.4 | 逓信省 | 25 | 8 | 前記継続事業第4年度として |
5 | 下水道敷設資金 | 150,700.00 | 5.4 | 逓信省 | 25 | 8 | 前記継続事業第5年度として |
6 | 道路改良事業費 | 102,600.00 | 3.6 | 北海道地方費 | 20 | 23 | 西5丁目線道路改良 |
6 | 第2期下水道費 | 66,600.00 | 3.6 | 北海道地方費 | 22 | 23 | 失業者救済事業として実施 |
6 | 第2期側溝費 | 31,000.00 | 3.6 | 北海道地方費 | 22 | 23 | 失業者救済事業として実施 |
7 | 第2期下水道費 | 107,000.00 | 3.2 | 北海道地方費 | 26 | 未 | 前記工事継続 |
7 | 第2期側溝費 | 46,700.00 | 3.2 | 北海道地方費 | 26 | 未 | 前記工事継続 |
7 | 第2期下水道費 | 4,700.00 | 4.6 | 公募 | 30 | 20 | 前記工事継続 |
8 | 上水道事業費 | 180,900.00 | 3.2 | 大蔵省預金部 | 26 | 24 | |
8 | 第2期下水道費 | 122,300.00 | 3.2 | 大蔵省預金部 | 27 | 未 | 前記工事継続 |
8 | 第2期側溝費 | 51,900.00 | 3.2 | 大蔵省預金部 | 27 | 未 | 前記工事継続 |
8 | 第2期下水道及側溝費 | 49,500.00 | 4.5 | 第一銀行 | 11 | 8 | 一時借入 |
8 | 市債借替整理費 | 2,020,000.00 | 4.6 | 公募 | 11 | 9 | 下水側溝事業等の各債償還整理のため |
9 | 第2期下水道及側溝費 | 133,000.00 | 3.2 | 大蔵省預金部 | 28 | 未 | 前記工事継続 |
9 | 上水道事業費 | 200,200.00 | 3.2 | 大蔵省預金部 | 27 | 24 | |
9 | 上水道事業費 | 217,500.00 | 4.2 | 日本生命 | 13 | 16 | |
9 | 上水道事業費 | 608,000.00 | 4.3 | 日本生命 | 13 | 16 | |
10 | 第2期下水道及側溝費 | 113,600.00 | 4.2 | 大蔵省預金部 | 29 | 未 | 前記工事継続 |
10 | 第2期下水道及側溝費 | 12,500.00 | 4.2 | 第一銀行 | 13 | 16 | 前記工事継続 |
10 | 上水道布設事業費 | 1,375,000.00 | 4.0 | 日本生命 | 13 | 15 | |
10 | 上水道給水工事費 | 396,000.00 | 4.0 | 日本生命 | 14 | 15 | |
11 | 道路改良事業 | 33,100.00 | 4.0 | | 12 | 12 | |
11 | 都市計画事業 | 153,000.00 | 3.4 | 大蔵省預金部 | 30 | 24 | |
11 | 都市計画事業 | 92,200.00 | 4.1 | 第一銀行 | 30 | 19 | |
11 | 上水道敷設事業費 | 622,200.00 | 4.1 | 第一銀行 | 34 | 19 | |
11 | 上水道給水工事費 | 342,300.00 | 4.1 | 第一銀行 | 34 | 20 | |
12 | 都市計画事業費 | 58,000.00 | 3.4 | 大蔵省預金部 | 31 | 24 | |
12 | 上水道敷設事業費 | 91,800.00 | 4.1 | 第一銀行 | 34 | 19 | |
12 | 上水道給水工事費 | 49,700.00 | 4.1 | 第一銀行 | 34 | 19 | |
12 | 上水道配管拡張工事費 | 173,000.00 | 4.2 | 関西信託KK | 34 | 13 | |
13 | 都市計画事業費 | 140,200.00 | 4.0 | 第一銀行 | 31 | 18 | |
13 | 都市計画事業費 | 100,000.00 | 4.1 | 第一銀行 | 36 | 16 | |
13 | 上水道配水管拡張工事 | 183,500.00 | 4.0 | 第一銀行 | 35 | 16 | |
13 | 上水道配水管拡張工事 | 171,932.00 | 4.0 | 第一銀行 | 34 | 19 | |
14 | 都市計画事業費 | 102,000.00 | 3.4 | 大蔵省預金部 | 32 | 24 | |
14 | 第2期下水道及側溝費 | 11,010.95 | 4.0 | 北海道銀行 | 17 | 17 | 昭10年度第一銀行より借入分を道銀に低利借替したもの |
15 | 上水道給水工事費 | 396,000.00 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 18 | 18 | 昭10年度日本生命より借入分を拓銀に借替したもの |
15 | 上水道布設工事費 | 1,375,000.00 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 17 | 18 | 昭10年度借入分を借替したもの |
16 | 都市計画事業費 | 85,800.00 | 4.0 | 北海道銀行 | 19 | 19 | 昭13年度第一銀行より誤謬借入分の繰り上げ償還し残額を借替したもの |
16 | 上水道事業費 | 183,898.51 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 17 | 24 | 昭9年度日本生命より借入分を拓銀に借替したもの。期限延期 |
16 | 上水道事業費 | 546,443.72 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 17 | 24 | 昭9年度日本生命より借入分を借替したもの。期限延期 |
16 | 上水道事業費 | 178,250.00 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 19 | 19 | 昭13年度第一銀行より借入分を借替したもの |
17 | 都市計画事業費 | 17,500.00 | 4.0 | 北海道銀行 | 17 | 17 | 短期 |
18 | 都市計画事業伏籠琴似緑地設営費 | 103,100.00 | 3.2 | 大蔵省預金部 | 21 | 21 | |
18 | 上水道給水工事費 | 396,000.00 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 23 | 23 | 昭10年度日本生命より借入分を再度借替したもの |
18 | 上水道布設工事費 | 1,375,000.00 | 4.0 | 北海道銀行 | 19 | 19 | 昭10年度日本生命より借入分を再度借替したもの |
19 | 都市計画事業費 | 77,082.97 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 35 | 23 | 昭13年度借入分を再度借替したもの |
19 | 上水道布設工事費 | 1,363,200.00 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 20 | 20 | 昭10年度借入分を三度借替したもの |
19 | 上水道布設工事費 | 616,800.00 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 24 | 24 | 昭11年度借入分を借替したもの |
19 | 上水道布設工事費 | 91,000.00 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 24 | 24 | 昭12年度借入分を借替したもの |
19 | 上水道治水工事費 | 339,700.00 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 24 | 24 | 昭11年度借入分を借替したもの |
19 | 上水道治水工事費 | 49,300.00 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 24 | 24 | 昭12年度借入分を惜替したもの |
19 | 上水道配水管拡張工事 | 152,522.00 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 24 | 24 | 昭12年度借入分を借替したもの |
19 | 上水道配水管拡張工事 | 167,132.00 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 24 | 24 | 昭13年度借入分を借替したもの |
20 | 上水道布設事業費 | 1,346,100.00 | 4.0 | 北海道拓殖銀行 | 22 | 22 | 昭10年度借入分を四度借替したもの |
ついで大きく展開した土木事業は、予算金額を増額すると事業が完成するというものではない。予算を倍増して倍の事業を展開しようとしても、それに必要な土木事業で働く労働者が必要である。この時期は第一次世界大戦の戦後不況から
関東大震災もあり、不況期が連続していて失業者が多くなった。そのため大正十四年、政府は主要都市の失業者救済事業を興すことにした。
札幌でも十五年から土木事業を展開した。その最初のものが、第一期の下水・側溝整備事業の五カ年継続事業である。さらに昭和六年には、五カ年継続事業の第二期
下水道及び側溝工事、二カ年継続事業の西五丁目線の跨線橋工事、
山鼻電車線延長工事の三工事を
失業対策事業を兼ねることにして、起債を一括して申請し(北タイ 昭6・4・11)、内務省の認可をうけて実施した(北タイ 昭6・5・16、29、6・3)。さらに上水道を建設するための土木事業、
札幌空港の整備のための土木事業、国道四号線の
札幌~小樽間の整備事業等々が、失業者救済事業や失業応急事業として行われ、多くの失業者や日雇い労働者が動員された(
札幌市事務報告)。
昭和初期の
札幌は、都市整備事業の一環として様々な土木事業が展開した。これは都市
札幌を文字どおり足下から整備し、変貌させるものであった。しかしその資金は
市債の発行という借金であり、その労働力は失業者救済の名目で集められたのである。そのため昭和十二年の日華事変以降、非常時ということでこれらの土木事業は順次縮小され、失業救済や
市債発行による土木事業は大幅に縮小された。