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失業救済事業

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 第一次大戦後の深刻な世界的不況のうえに、大正十二年の関東大震災による甚大な打撃のため、大量の慢性的失業者群が巷にあふれた。このような状態において十四年十一月から、一斉に六大都市及び大阪府の七団体において失業救済事業が執行された。すなわち、同年八月内務・大蔵両大臣の間において、公共土木事業を失業救済のために起興させることを協議し、内務次官通牒をもって、長期在住者を優先的に登録させ、冬季に失業救済土木事業を実施することとした。その事業種目は、道路修築・溝渠浚渫・堤防改築・埋立工事等で、大正十四、十五、昭和二年と継続していた(内務省史 第三巻)。
 これを受けて、札幌職業紹介所では昭和二年五月二十二日から日雇労働者の登録を開始し、四日間で三〇〇余人が登録した(北タイ 昭2・5・24、28)。六月一日から日雇労働の紹介を開始し、七月二十三日には日雇労働紹介専門の労働部を開設した(北タイ 昭2・7・28)。ここを口にして札幌市の第一期下水道工事(昭2~5年度)のための労働者を募集して完了させた。これがのちの失業救済事業へと継続されてゆく。
 すなわち六年四月、札幌市は失業救済事業工事として、第二期下水道事業五六万円(五カ年継続)、第二期側溝事業三四万円(五カ年継続)、西五丁目線跨線橋工事二七万五一〇二円(二カ年継続)、山鼻線電車延長工事一五万七一五〇円(北タイ 昭6・4・11)を計画、北海道庁に国庫補助を申請して同年五月二十八日、内務省社会局参与室開催の失業防止委員会失業調節部幹事会で認可された(北タイ 昭6・5・29)。これにより、道路改良工事一日失業者一八四人、電車軌道工事一日失業者一一〇人、下水・側溝工事一日失業者一二二人の計四一六人、延べ九万人余の登録労働者が交代で就業することが見込まれた(北タイ 昭6・6・3)。
 その結果、六年度より(白石村のみ五年度)十二年度間の失業救済事業は表25のごとく実施された。すなわちもっとも失業者数の多かった昭和七年度の場合、札幌では道路改良、砕石・玉石砕石、電気軌道新設、下水側溝、道路、下水道築造の諸工事が起興され、延べ約一八万人の失業労働者を救済した。このため、先送りされていた各種公共事業は失業救済事業の一環で進行することになった。なお、七年度からは「失業救済事業」の名称が被救済者に被救済権の権利観念を抱かしめるとの理由から「失業応急事業」と改め、「失業者使用公営事業」や「道拓殖費関係土木事業」名として実施された。しかし、九年度を境に国庫補助予算がいちじるしく減少傾向を示し、全体的にみても事業施行範囲が限定されるようになった。当時の政治的要求を優先させた現象であろう(北海道職業行政史)。表からみる限りでも昭和十年以降、使用労働者の極端な減少がそれを示している(第三章二節参照)。
表-25 失業救済事業施行および労働者紹介状況
年度団体名使用労働者工事名
昭和5白石村919人道路建設
  6札幌56,046電車軌道新設,下水道側溝,道路改良
  6白石村11,340道路新設
  7札幌121,785(応)道路改良,砕石・玉石砕石,砂利採取,電車軌道新設,下水道側溝
  7札幌56,178(公)道路,下水道築造
  8札幌57,491(応)道路拡策,運動場新設,上水道敷設
  8札幌92,987(公)下水,側溝築造
  9札幌156,266(応)運動場新設,上水道敷設,下水道並側溝築造
  10札幌46,998(応)下水側溝築造,砕石,側溝築造
  10札幌市※2,262(拓)道路改良
  11札幌22,480(応)採石採取
  11札幌市※13,533(拓)道路,河川
  12札幌15,596(応)砕石採取
1.(応)…失業応急事業,(公)…失業者使用公営事業,(拓)…拓殖費関係土木事業,※印は施工個所を示す。
2.昭和11年度及び12年度『失業応急事業概要』(厚生省職業部),『北海道職業行政史』(北海道労働部職業安定課)より作成。

 これらの背景には、十二年の日中戦争の開始前後の軍需工業、輸出工業等の一部産業界の好転による失業情況の緩和も考えられなくはないが、明らかに大きな転機を迎えていた。
 すなわち社会事業全体をみてゆくと、昭和十三年度を境にして、軍事型の体制に変わってゆく。昭和十三年七月の「社会事業法」「職業紹介所法」の改正にともなって、職業紹介事業も、従来のような失業救済または防止というよりは、戦時遂行のための生産力の増強に向かって、労働力の調整に力点が置かれることとなり、そのためこの事業は国の行政に移管されることになった。各種の救護事業は軍事援護事業として軍隊への応召者家族や遺族の援護に重点が置かれるようになったのである。
 つまり、市民生活の安定ないし扶助よりも軍需物資の生産を優先する方向をとるに至ったことを意味する。国家予算に占める軍事費の急激な膨張のしわ寄せが、社会事業に波及してきたのは当然であろう。