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詩誌の隆盛

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 昭和五年から七年にかけては、戦前の詩を中心とする活動が札幌で盛りあがりをみせた。五年には山本正夫石井みのるらの『自由詩人』、宮崎晴一の『詩歌評論』、黒滝佳夫の『天人花』、富樫酋壱郎の『篝火(かがりび)』、細田貴世志の『北土文学』のほか、『象徴』『ヨタルコ』などが創刊された。六年には斎藤誠一の『詩と歌』、秋谷静香岸正夫の『』、七年には竹林みちるの『すかんぽ』、岡部敏雄の『文芸北海道』、鈴見健次郎の『時計台』、岡本万久の『詩弦』、プロ作家同盟札幌支部の『吹雪』などが創刊された。
 このうち『篝火』について富樫酋壱郎(川淵一郎)が「〝北斗文芸〟前後」(北海道文学 昭38・12)を書いて回想している。それによると、富樫が勤めていた札幌水力電気株式会社の仲間と、五年十月に『篝火』を一年に二、三冊出したあと、経営的に苦しくなって『北斗文芸』を創刊した。『自由詩人』の炭光任、『時計台』の北大生鈴見らが集って三誌合同の会をやっていくうちに札幌詩話会の結成となり、『北斗文芸』は一〇冊ほど出したところで題名が古くさいということで、昭和七年秋に枯木虎夫らとともに『詩宗族』と改題して昭和十年まで刊行したが、治安維持法に富樫がひっかけられて検挙されたため、廃刊となったということである。
 昭和六年に結成された詩人聯盟は、『自由詩人』『北斗文芸』『北土文学』『象徴』『ヨタルコ』のほか、『吟声』『詩歌評論』の一部メンバーで結成され、機関誌『北海道詩人』を創刊した。林下茂和田和吉野間信雄などが編集人となり十一年頃まで続いた。
 昭和七年九月創刊の『吹雪』は、プロレタリア作家同盟札幌支部の機関誌で、創刊号は出すと即日発禁押収となり、責任者はブタ箱に入れられた。笠井清の『札幌プロ文学運動覚え書』(新日本文学会出版部、昭51)が当時の様子を詳しく書いている。『吹雪』は第二号から『文学部隊』と改題して刊行され、昭和九年二月のプロレタリア作家同盟の解散で消滅したが、その血脈は十一年創刊の『北方文学』に受け継がれたと笠井清は書いている。『北方文学』はプロレタリア文学運動の推進を自認し、本庄陸男が「貧乏人の美徳」を寄稿したりしたが、十二年七月まで刊行し、九月に弾圧されて廃刊した。