昭和二十二年五月三十一日から六月六日まで開催された北海道出版文化祭のメーン・イベントは〝パネルディスカッション式文学論〟(文芸復興創刊号に全文収録)であった。司会は早川三代治で、小林秀雄、久米正雄、中村光夫、亀井勝一郎などの東京組に、道内から小柳透、吉田十四雄、安延三樹太、加藤愛夫、中津川俊六、西尾彰二、宮古哲夫、五十嵐重司などが参加した。「近代精神」の解釈をめぐる小柳透と中村光夫のやりとりに小林秀雄が口をはさむ部分は、戦後文学の理念を知るうえで貴重な発言である。私小説、第二芸術論についても活発に語られている。「郷土文学の在り方」について吉田十四雄と加藤愛夫が、北海道文学の中心は農民文学であるとしたうえで、戦後も農民文学は有効性があると発言したのに対し、亀井勝一郎が、農民文学や郷土文学という狭い枠の中に押し込めるのは反対だと言い、島木健作が地方を描きながら普遍性をもっていると語るところは説得力がある。小林秀雄がモオツァルトについて熱心に語るところも興味深く、戦後の早い時期に北国で熱い文学談義が交わされた熱気が伝わってくる。