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野菜栽培の動向

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 「札幌市中央卸売市場に入荷する野菜全体の一九パーセント、道内産に限ってみると実に三一パーセントが市内産であるというように、市内生産の農畜産物のほとんどは市民に供給されている。このように、本市の農業は、市民に対する生鮮食糧農畜産物の生産供給という点で極めて重要な役割を果たしている」(札幌市の農業 昭49)。
 この時期における野菜栽培の動向をまとめるにあたり、以下に作目別作付面積の変化、野菜市場の変貌、野菜生産・流通の振興策を順次みていく。
 〔作目別作付面積〕 表48によれば、昭和四十年代以降の野菜類の作目別作付面積の変化はまことに目まぐるしいばかりである。全般的に減少傾向を続けていることを認めた上で、大ざっぱに二つのグループに分けることができる。第一のグループは、作付面積が大きく落ち込んだダイコン、ニンジン(根菜類)、ハクサイ、キャベツ、ネギ(葉茎菜類)、キュウリ、トマト、ナス(果菜類)であり、いずれもかつては本市の野菜生産を代表する作目であったにもかかわらず、今では最盛期の作付面積の一割にも満たない有様である。第二のグループは、作付面積が落ち込んでいるもののその程度は緩やかであった、その意味で比較的健闘してきたホウレンソウ、スイートコーン、タマネギ、アスパラガス、レタス(葉茎菜類)、カボチャ、スイカ、メロン(果菜類)である。なお、「札幌市の農業」を通読すれば、代表的作目の変化を読み取ることが出来るけれども、近年においてはタマネギ、ホウレンソウ、コマツナ、シュンギク、カボチャ、スイカ、メロン、葉ネギがあげられている。
表-48 作目別作付面積の推移(野菜類)(単位:ha)
年度①根菜類②葉茎菜類③果菜類
ダイコンニンジンゴボウハクサイキャベツネギホウレンソウキュウリトマトナスカボチャ
昭452651881491455613111511858
 5095654709089250405035
 5591737797810432272031
 608571709282619635
平 251582259481712451
  72843215371013775241
 121217671548353130
 
年度 ④豆類⑤土物類⑥洋菜類⑦果実的野菜
ピーマンスイートコーンサヤインゲンバレイショタマネギアスパラガスレタススイカイチゴメロンリンゴ
昭4586601,37015833210
 50283401,270 1402049
 55233721,1901302040
 60106193721,13022 66121634
平 26181911,080204441826
  77534115747171133341824
 124419775051176204720
札幌市の農業』各年による。

 〔市場の変貌〕 昭和五十年代になると、①輸送手段の進歩により道内産のみならず、都府県産野菜の移入があたり前になったこと、②逆に、夏場の端境期に道内産野菜の移出も増加したこと、③市場での取引形態も個人出荷中心から、量販店の進出に対応する大量取引が中心となってきたことなど、野菜流通市場の変貌が本格的な段階に入り、「市場が近いというだけの都市近郊野菜づくりの有利性はもはや消滅した」(農業さっぽろ 昭57・3)。
 さらに、六十年代以降にも、①一人あたりの年間消費量は横ばいで推移しているとともに、消費の多品目化・少量買傾向が強まっていること、②鮮度、熟度、安全などの品質面の重視の動きと合わせて、無農薬あるいは有機栽培農産物への関心の高まりなど多様化の進展、③カット野菜、冷凍野菜などの業務用・加工用需要の増大、④生産面においては、水田転作による野菜作付志向が強く、多くの野菜が供給過剰基調にあるものの、野菜需要は作目別でも、時期別でも変動傾向は変わっていないなど、野菜流通市場の変貌はとどまることを知らない。以下、札幌市の野菜生産に即してみていく。
 札幌市中央卸売市場に入荷する主要野菜の入荷量は、データを欠く昭和六十年以前はおくものの年々増加している。その中で、市内物の占有率は年々低下しており、四十年代末には対総入荷量の一九パーセント、対道内産の三一パーセントであったものが、平成十二年には、各々四・三パーセント、六・三パーセントになった。ただし、作目別にばらつきがあるのは当然であり、例えば十二年における対総入荷量の市内物占有率は四・三パーセントを上回ったタマネギ、ホウレンソウ、コマツナ、シュンギク、カボチャ、スイカ、葉ネギ、レタス、サヤインゲンの九作目はそれなりに産地間競争力を備えた、その意味で本市の代表的作目とみることができる(表49参照)。
表-49 主要野菜の市場入荷量および市内物占有率(単位:t、%)
 昭55昭60平2平7平12
総入荷量市場占有率総入荷量市場占有率総入荷量市場占有率総入荷量市場占有率総入荷量市場占有率
対総入荷量対道内物対総入荷量対道内物対総入荷量対道内物対総入荷量対道内物対総入荷量対道内物
根菜類ダイコン14,9791424,7958.910.724,2865.26.126,9872.63.330,5871.31.9
ニンジン5,071199,50818.628.910,8857.710.514,6307.19.317,7273.25.0
ゴボウ2,5968.19.13,1483.74.14,4282.62.84,1473.84.8
葉茎菜類ハクサイ11,2191417,4155.07.915,1052.03.016,1531.21.821,1160.40.7
キャベツ10,9712423,12312.819.322,6966.69.527,2652.83.928,5230.50.9
ネギ6,5741.62.87,1322.02.98,8780.91.210,5120.60.9
葉ネギ6322.242.411929.238.217911.016.13067.812.6
シュンギク1836643422.871.246123.856.355011.427.664810.230.1
コマツナ 34562.981.675257.570.01,25950.370.3
ホウレンソウ2,273504,25825.650.64,28020.530.34,73914.920.45,2746.19.2
果菜類キュウリ3,9661611,38112.621.610,0315.28.510,2642.65.310,3141.42.9
トマト3,382127,4239.715.97,3571.21.79,6912.02.911,7031.11.8
ナス375205,1731.435.04,9971.015.75,3110.317.06,6060.217.3
カボチャ6,80610.311.88,1305.36.19,3604.55.47,7865.27.2
ピーマン796282,3374.610.22,5147.414.63,0833.87.23,5831.93.9
スイートコーン3,08483,88911.913.74,3946.87.93,7455.15.92,9983.94.6
豆類サヤインゲン5293071417.921.868916.018.865510.612.769311.814.7
土物類バレイショ21,0521626,66421.222.632,6747.58.028,6825.76.133,1624.24.5
タマネギ 23,71226.539.129,59719.625.430,75815.218.740,35212.114.2
洋菜類アスパラガス 1,4287.67.91,4224.75.31,6301.62.51,4011.11.5
レタス3,488445,32228.545.15,04025.842.65,79920.338.07,66312.929.5
果実的野菜スイカ8,2994512,27416.927.012,17414.622.810,57310.015.810,0026.08.5
イチゴ2,9041.34.92,9090.72.52,5250.31.33,3960.21.5
メロン7,2544.96.39,4354.55.58,7203.23.97,7580.70.9
206,04714.020.3219,8208.611.6235,3576.08.3267,5164.36.3
札幌市の農業』各年による。もとの表に記載されている主要野菜の作目数は、昭55(20)、昭60(38)、平2(47)、平7(47)、平12(44)である。なお、昭55の総入荷量には都府県物は含まれていない。

 他方で、昭和五十年代以降市内産野菜の都府県への移出もまた本格的に行われた。けた外れの移出量を誇ったタマネギをはじめとして、これまでに一一の作目が移出されたが作目別、時期別に変化をみると、やはり早い時期にはダイコン、ニンジン(根菜類)、キャベツ、ホウレンソウ(葉茎菜類)、カボチャ(果菜類)、バレイショなどが中心であった。その後はホウレンソウ、レタス、葉ネギ(葉茎菜類)が増加し、さらに近年においてはシュンギク(葉茎菜類)、サヤインゲン(豆類)が顔をだしている。ただし、作目数、移出量ともに近年は著しく減少しており、タマネギのごときも移出量が大幅に減少しているのみならず、出荷量に占める移出量の割合も六十年代前半の八四パーセントから平成七年の六八パーセント、十二年の三二パーセントというように急速に小さくなっており、この面でも後退を余儀なくされている(表50参照)。
表-50 主要野菜の都府県移出実績の推移(単位:t)
年度タマネギニンジンバレイショホウレンソウレタスカボチャ葉ネギキャベツダイコンシュンギクサヤインゲン
昭5849,232410412299988217330
 5941,2035604422091457624345
 6041,866736507160965350403
 6153,531543430257130297329
 6249,4012292519477345816
 6349,502260325104186948249
平 148,75513931118641727848
  246,08017212051375818
  342,8051691953174243
  444,1951471241410443
  539,812145125161529
  628,907169491836
  728,9071286061126
  831,8981016768
  91415659
 1018,021786659
 1119,875150204548
 129,3008541230
 1310,19211554346
札幌市の農業』各年による。

 〔生産・流通の振興策〕 都市農業特有の厳しい環境の下、このような市場の変貌に即応して産地間競争を生き抜くために、本市の野菜生産は、需要サイドのニーズに的確に応えることが出来る生産・流通体制を確立すべく、さまざまな努力を払ってきた。
 第一に、昭和五十年代なかばに、共販体制の確立を現実のものにしようという動きが各方面から起こった。五十七年までに設立された共販組織の概要を示した表51によれば、各農協や部会、生産組合、研究会など一一の共販組織が一〇の作目を対象に共販事業を活発にしていた。これら共販組織の成立年次は不明のものが多いが、おそらく五十年代なかばに集中していたと思われる。
表-51 共販組織の概要
作目名共販組織名参加戸数選果形態出荷先
ホウレンソウ豊平東部農協蔬菜生産組合51個選道内、都府県
新琴似農協ホーレンソウ移出研究会11都府県
常盤蔬菜研究会10道内
北札幌農協12道内、都府県
厚別農協園芸部会6
札幌市農協蔬菜部会15
促成キュウリ市内農協青果物共選共販出荷組合6道内
露地キュウリ       〃32共選
アスパラガス       〃36個選
トマト       〃21共選
カボチャ札幌市農協カボチャ部会18個選
スイカ札幌市農協果実部会34
刈ミツバ小別沢野菜生産組合6
促成キュウリ札幌市余熱利用施設園芸組合6共選
トマト      〃
抑制トマト      〃
『農業さっぽろ』(昭57.9)による。札幌市農協蔬菜部会は、昭和62年度から共選に移行した。

 これらの共販組織の中で、特に大きな役割を果たしたのが札幌市内農協青果物共選共販出荷組合であった。五十年代なかば、本市の農業が都市化のあおりを受けて都市農業、都市農協のあり方について新たな対応を迫られたおりから、都市化対策を統一的に進めるべく、五十七年三月、市内六総合農協により、札幌市内農協都市化対策本部が設立された。都市化対策本部が最初に着手したのは共販事業であり、同年五月、共販事業の担い手として前記出荷組合が設立されたわけである。この年には促成キュウリ、アスパラガス(個選による)、露地キュウリ、トマト(共選による)の共販事業がスタートした。この四作物については、全市を一体化した共販体制が確立されたことになるが、とりわけ注目に値するのは、露地キュウリ、トマトについて共選共販体制という一歩踏み込んだやり方がとられたことである。同出荷組合は五十八年にニンジン(共選による)、五十九年に葉ネギ(個選による)といった具合に共販事業を拡大していった。
 すでに述べた市内産野菜の都府県への移出も、タマネギ(札幌市・北札幌・篠路の各農協)、ニンジン、葉ネギ(出荷組合)、バレイショ(札幌市・北札幌・篠路・豊平東部・厚別)、ホウレンソウ(六農協全て)、レタス(札幌市・篠路・厚別)、カボチャ(札幌市・北札幌・篠路・厚別)、キャベツ(札幌市・豊平東部・厚別)、ダイコン(豊平東部・厚別)など、全ての作目が出荷組合や農協などを担い手とする共販事業として行われた。
 第二に、共販事業と並行する形で、市内産野菜の代表的作目についてブランド化が進められた。札玉(タマネギ)、ポーラスター(ホウレンソウ)、さっぽろグリーンねぎ(葉ネギ)、大浜みやこ(カボチャ)、サッポロスイカ(スイカ)、サッポロメロン(メロン)、サトホロ(イチゴ)、サッポロさとの太陽(トマトジュース)、さらら(タマネギ)などがそれであり、札幌ブランドに指定された年次はやはり不明なものが多いけれども、おそらく五十年代後半に集中していたと思われる。
 第三に、施設栽培が本格的に推進されたのも実はこの時期のことに属する。四十年代に入って間もなく、藻岩地区に始まったとされる施設栽培は五十年代以降に市内全域に普及していくが、本市においてはプラスチックが中心で、ガラス温室は多くないのが特徴である(表52参照)。
表-52 施設園芸の状況の推移(単位:棟)
年度合計ガラス室プラスチックハウス
小計鉄骨ハウスパイプハウス
昭5882628798147651
 59
 6070516689101588
 61
 6271616700102598
 6375316737102635
平 175619737102635
  21,740191,7211021,619
  31,703131,690651,625
  41,789121,777591,718
  51,126121,114441,070
  61,161121,149451,104
  71,085101,075151,060
  81,125101,115151,100
  91,163101,153151,138
 101,186101,176151,161
 111,219101,209151,194
 121,258101,248151,233
札幌市の農業』各年による。鉄骨ハウスにはアルミハウスを含む。

 作目別、時期別の推移をみると、五十年代前半まではキュウリ、トマト、ピーマンなどの促成あるいは抑制栽培が多く行われていたが、その後は道内他産地からの共選物の進出に押されたこと、および労働力不足のために規模拡大もままにならないこともあって、サヤインゲン、シュンギク、ミツバ、イチゴなど鮮度が要求され、かつ比較的共選に乗りにくい、軟弱小物類の栽培が増加したようだ。さらに六十年代以降には品質の向上、安定出荷、作期の延長などを目的として導入された、雨よけ施設栽培がホウレンソウなどの軟弱小物類やメロンを中心に増加していった。
 第四に、新しい品種の開発が進められたことも逸することはできない。一つは、ジャンボイチゴであり、四十六年以来一五年の歳月をかけて農業センターが育成したものであり、六十一年六月、初出荷にこぎつけた。六十三年八月には、サトホロの品種名で農林水産省の登録品種として認可され、本格的に普及されることになった。本市のイチゴ生産は五十年ころをピークに下り坂にあったが、サトホロは低迷を打破する起爆剤として大いに期待された。
 もう一つは、新品種のタマネギ・トヨヒラであり、農水省北海道農業試験場が平成十年に開発したものである。トヨヒラはサラダなどの生食用や、半調理用のタマネギが欲しいといった消費者のニーズに応えるべく開発されたものであり、北海道の主要品種(F1)に比べて柔らかく辛みの少ないことが特徴である。十二年から本格的に販売を開始したが、ブランド化を図るべく、同年には一般公募により「さらら」という愛称がつけられた。
 その他に、メロン漬、減塩梅漬、トマトジュース(サッポロさとの太陽)など農産加工品の開発も進められている。