としまひすとりぃ
ひと×街 ひすとりぃ

様々なひとが暮らす街。
ひとりひとりの日々の暮らしからそれぞれの物語が紡がれ、街の歴史を織りなしていく…
そんな物語の軌跡を区民インタビュアーがたどります。


2 郷土資料館友の会の活動

5年計画で実施された歴史・生活資料調査の第1回目(旧高田・雑司が谷地区)の終了時に、調査員の中から「このまま終わるのは惜しい」という声があがり、昭和60(1985)年10月5日、「郷土資料館友の会」(以下「友の会」)が結成された。

受け身ではなく、自主的な声を反映して発足した友の会の活動は、勉強会や見学会、会報の発行など多岐に渡るが、会則には「資料館への協力」という項目も掲げられている。資料館が催す企画展等で、「監視員」として会場内の案内役を務めるのもそのひとつだった。「質問されることがあるので、事前に展示の勉強をさせていただくんですが、私たちは学芸員じゃないから、深くは聞かず、もっと知りたいという方は学芸員につなぐんです」と、友の会が来館者と学芸員との架け橋の役目を果たしていたことを振り返りつつ、「学芸員にはしゃべらないようなことでも、私たちにはしゃべってくださる方がいたり、いいものをもらえたり…多分、ぽろっとしゃべってくださるんですよね、みんなとっても興味を持って話を聞くから。そういう点では、郷土資料館にとってもよかったんじゃないかな。会のみんなで貢献できたと思います」

また、友の会に入ったことで、人々の生活史に対する興味が深まったという。発足以来続いている古文書学習会の活動もそのひとつだ。豊島区周辺は江戸の近郊農村としてダイコンやナスなどの野菜生産地だったが、通行の要となる街道沿いにはそうした野菜の種子を商う種子屋(たねや)が数多くあった。中でも中山道(巣鴨地蔵通り)沿いに店を構える「榎本留吉商店」(現在の東京種苗株式会社)は、全国に取引先を持つ大店(おおだな)だったが、平成3(1991)年、その蔵の解体に伴い、郷土資料館へ貴重な資料約6万点が寄贈された。「お蔵ひとつくださって。お蔵だから、種子屋さんのものだけじゃなくて、家族のものとか、いろんなものが入っているんですよ」と、榎本家の「タネの道」を探るべく、小池さんたち友の会メンバーが立ち上げた「エノモン会(※5)」(榎本泰吉家文書調査会の略)による古文書の解読・資料整理作業はすでに30年近く続いている。気の遠くなるような根気のいる仕事を「資料が読めれば(書き留める作業で)手が痛くなって、読めないと頭が痛くなる」と冗談まじりに語る小池さん。そうした息の長い活動が土台となり、約3万5千点の資料整理が完了した平成20年に郷土資料館企画展「一粒入魂!(※6)」が開催された。約6万点のゴールまで、あともう少しだという。

平成11(1999)年には、友の会により「旧谷端川の橋の跡を探る(※7)」が発行された。暗渠化により姿を消した谷端川の源流から神田川に合流する流末までにかかっていた67の橋を辿る会報連載記事を一冊にまとめたものである。連載は平成元(1989)年8月に始まり、平成8(1996)年11月まで8年間に及んだ。連載開始から10年目を迎えたのを機に、現状写真や資料を付け加えて再編集された冊子は、かつて人々の生活と密着に関わっていた川の歴史を掘り起こした貴重な記録であり、記事を書く人、写真を撮る人、それぞれが得意分野を分担し合い、「地域を愛する人々が一丸となっての活動だった」という。

当初の資料調査に応募したのは、昼間の活動ということもあって女性や学生が中心だったが、男性の場合は定年後の参加が多く、友の会のメンバーですでに亡くなられている方々もいる。その中でも、読売新聞の婦人欄を作った沢寿次さんのことは強く印象に残っているという。新聞記者を辞めた直後こそお洒落なスーツ姿だったが、次第に服装に構わなくなり、資料館からの紹介で街歩きのガイドを務める際も、作業着のような汚い格好で現れ、参加者から胡散臭い目で見られたらしい。しかし、いざ説明を始めれば、溢れんばかりの豊富な知識に、最後は「先生!先生!」と追い回されていたとか…そんなユニークな人々が寄り集まった会の活動を30年以上も続け、その代表を務めてこられたのにはそれなりのご苦労もあったのではと思われるが、「みなさん、それぞれにいいところがあるから」と、小池さんは大らかに笑う。

※5 エノモン会(榎本泰吉家文書調査会)
関連資料:郷土資料館2008年度企画展「一粒入魂!」図録抜粋

※6 郷土資料館2008年度企画展「一粒入魂!~日本の農業をささえた種子屋~」(開催期間:2008年10月16日~12月14日)
関連資料:H201016プレスリリース



※7 旧谷端川の橋の跡を探る(1999年豊島区立郷土資料館友の会発行)
関連資料:H120121プレスリリース

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