としまひすとりぃ
ひと×街 ひすとりぃ

様々なひとが暮らす街。
ひとりひとりの日々の暮らしからそれぞれの物語が紡がれ、街の歴史を織りなしていく…
そんな物語の軌跡を区民インタビュアーがたどります。


6 ここに愛情を持ってくれる人、募集中!

誕生してから約15年目の春に起きたコロナ禍では、みらい館大明も大きな影響を受けた。収入は半減したが、杉本さんはスタッフたちの生活を守るために手を尽くしている。
「従業員の給料を出すためだけに、国と東京都の補助金を申請しました。今は豊島区に、『今のうちだけ助けてください。きちんとできるようになったらお返しします』っていう気持ちで申請してます。もらう気はないです。お貸ししてもらう。本来は働ける時間に自粛してもらってるから、働けなかった人たちの時間を守るために国の制度を利用してます」

日々の消毒や利用者の受け入れ態勢など、コロナ対策は杉本さんが「日本一厳しい」と胸を張るほど厳しい。事前の検温や書類への記入はもちろん、使う団体ごとに入り口もトイレも分けるなど、細かなルールをもうけた。利用者は減ったが、得るものも多かったと振り返る。
「コロナは大変だったんだけど、(スタッフの)若い子たちに掃除の仕方を教えられたのはよかったかな。今では適当にやってたのが、換気扇も真剣に掃除したりして、ちゃんとやるようになりました。ペンキ塗りもしましたよ。『ペンキ塗りしよう!』って言って(笑)。若いスタッフに錆びの取り方、下塗りのやり方を教えて。みんな一生懸命やってくれましたね」

コロナ禍は多くの人に考える時間をもたらした。杉本さんが考え込んでいたのは、次世代へのバトンタッチ。そのために大きな決断をしたばかりだと明かしてくれた。
「ここに愛情を持ってくれる人を探すことで今、頭が痛いんです。その人にはもちろん給料を出すんですけど、ボランティアの気持ちでできる人を考えているので、なかなか難しくて。このコロナで本当に考えさせられたのが、お金とかそういうことではなくて……。だから、今年いっぱいで美容院の仕事を辞めて、店も閉じて、しばらくは人を育てないといけないかな。片手間では育てられないから、真剣に。おととい『大明で本腰入れて働きます』って、旦那に宣言しました。なんでも自分で決めてますから」

施設としての今後の展望は明確だ。これまで掲げてきたことをまっとうしつつ、さらに発展させていく。まずはやはり、地域を越えた学びの場であることを目指す。
「ここは誰でもウェルカムなNPOだから。学んだ人がまた教える教えるっていう形になれるように、育てていきたいですね。そのためには、誰でも気楽に入れる施設にする。小さい人からお年寄りまで『来てよかった』『今日は楽しかったね』って笑顔で帰ってもらえることを、目標にしてるんですよ。それは前からやってたことだけど、もっと。
それと、『ここに来たらわからないことを教えてくれるよね』っていう場所でありたい。それがここの役目だと思うんです。そのためには、ここが今まで通りあり続けられて、『いつ来ても安心できる場所だよね』っていわれるのが、一番じゃないでしょうか」

地域のために、子どものためにと始めた杉本さんの活動は、誰でも受け入れる温かい場を育てあげた。それは、人懐こい笑顔で初対面の人の心もぐっと開いてきた杉本さんそのものにも見える。これからも、杉本さんもみらい館大明も、「みんなの」よりどころであり続けるに違いない。

さくらまつり
正月まつり
食文化考察シリーズ
いのちの森10周年 式典
(取材日:令和2(2020)年9月3日)



◆区民インタビュアー取材後記◆

根岸 豊さん

今回のインタビューにはあまり乗り気ではなかった。なぜなら、わたしは杉本さんが理事長のNPO法人「いけぶくろ大明」の関係者で、杉本さんとは毎月の幹事会や講座などで何度も会っていて改めて伺うことはないかなと。しかし、杉本さんがリードして築き上げている「みらい館大明」の歩みをインタビューというかたちだが文章として残すことの意味がある。

吉田いち子さん

「みらい館大明」の館内に入ると塵一つない床の煌きに忘れ去られようとしている日本人の美徳さえ感じる。館長である杉本カネ子さんの気配りか。一挙手一投足にも凛としたものを感じる。
さて、多くの人々の口からでてくる”コミュニティー”という言葉。少し曖昧さを含みながらも話が進むことが多い昨今だが、そんな中で、うっかり見過ごしがちな事象に対してもカネ子さんは物怖じすることなく「まてよ」という疑問を持ち続けた。息子さんも通学した大明小の統廃合というシーンでも、溢れんばかりの想いそして疑問があったに違いない。廃校の再生、復活という表面的な言い方では表現出来ないサムシングがあったと思う。
疑問をもち、それは本質を見事につくものだった。そして天性ともいうべき気配りと心配りを備えた行動があったからこそ生涯学習施設「みらい館大明」は生まれ、地域に根を張り管理・運営されて生きている。現在、外国籍の人々も多い豊島区であるが、この地に愛着を持って住み続けてきた人々が皆が一緒になり「地域づくり」&「学び」という二本柱にますます勢いを増していくことと思う。









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