としまひすとりぃ
ひと×街 ひすとりぃ

様々なひとが暮らす街。
ひとりひとりの日々の暮らしからそれぞれの物語が紡がれ、街の歴史を織りなしていく…
そんな物語の軌跡を区民インタビュアーがたどります。


6 手話通訳者としても地域に根差し30年

白熊さんは仕事を定年退職した後も、手話通訳者として小さな声を伝える活動を続けている。
「長男が5年、二男が1年生のときかな。家で母の仕事を手伝ってるだけだったので、習い事かボランティアを始めようかなって考えてたら、母が『広報としま』に載ってた手話講座を勧めてくれたんです。家の向かいに聞こえない方がいらっしゃることもあって、『手話かぁ……』って考えが向いたの」

豊島区の手話通訳者の資格を持つ白熊さんは、2年間の講習を経て登録試験を受けた。試験は、筆記と手話の読み取り、手話表現である。
「合格後は毎月4回ほど研修を重ね、通訳の現場に先輩と出て慣らしていく。4年目からはお医者さんの手話通訳に行く。病院で聞こえない人の言葉を間違って読み取ってしまうと命に関わるので、4年目以上なんです」

その後も技術研鑽は続く。聞こえない人との相性や知識の差を埋め、方言や新たな手話表現などを日々、学ばなければならない。コロナ禍では、オンライン研修やYoutubeを駆使した月4回の勉強会などを続け、以前にも増して切磋琢磨している。技術だけでなく、幅広い常識やコミュニケーション力も求められる、きわめて専門性の高い仕事なのだ。にもかかわらず、待遇はいいとはいえない。白熊さんが登録している豊島区の通訳者も含め、辞めてしまう人が多いのが現状だ。
「今、豊島区で登録している通訳者は30人ぐらい。私がなってから30年は経ってて、毎年3~5人は合格してるのに、ですよ。仕事を持ってると土日しか働けなかったり、常に勉強をしなきゃいけなかったりという義務があるので、辞める人が多いかな」

豊島区は成人式に手話通訳を導入することでは先駆的だったが、区議会に入れるまでには時間がかかった。白熊さんら手話通訳者が、複数の区議会議員とともに粘り強く働きかけて採用されたのである。
「こちらサイドで議員さんを動かしたの。『言語条例』(※10)を認めてもらったりして、ようやく通訳をつけるようになりました。よかったんですが、遅いとも思います。昔、私がテレビに出たとき『(話す人の)横にいかせていただきます』って言ったんです。手話通訳者は邪魔者扱いされてましたから。だから本当に、やっとですよね。ようやく通訳者を認めてもらえた」

※10 言語条例 平成30(2018)年12月10日「豊島区手話言語の普及及び障害者の多様な意思疎通の促進に関する条例」制定、平成31(2019)年4月1日施行。手話が言語であることの理解を広め、障害のある人もない人もお互いに理解し合うための多様な意思疎通手段を使えるよう進めていく条例。
関連資料:「豊島区手話言語の普及及び障害者の多様な意思疎通の促進に関する条例」について(H301002・H301130区民厚生委員会資料)

白熊さんは区民ひろば(※11)や小学校など地域の施設で手話指導を務めることもあるが、近ごろは手話を取り入れた脳トレ講座の依頼が来ている。そうした日常のなかで、いま関心の多くを占める〈老い〉と向き合っているという。同時に、子どもたちのこともやはりまだ、気にかかる。
「今、一番の悩みが、母と同じ認知症にならないかってこと。手話も、どうしても若いときのスピードにはついていけないし、聞こえが悪くなった。だから、頼まれるうちが華かなって思ってます(笑)。
それから、今関わってる地域の子どもたち。動きを知っておきたいから、『子どもスキップ』(※12)には月に8回3時間、行かせてもらってるの。だけど、今は学校から頼まれても私1人では動かない。民生委員の主任児童委員を呼んで、2人でその子に対処するとかね」

自身の変化を歯切れよく語る言葉にも、周囲への優しさがあふれる。白熊さんが、誰のことも置き去りにせず、対話を重ね、心の移り変わりを見つめてきたからだろう。

(取材日:令和3(2021)年1月27日)
※11 区民ひろば 年齢や使用目的によって利用に制限のあったことぶきの家や児童館などの既存施設を、小学校区を基礎的単位とした地域の活動の拠点として再編した施設。

※12 子どもスキップ 教室、校庭、体育館等の小学校施設を利用して、全児童を対象とする育成事業と学童クラブを総合的に展開する事業。「子どもスキップ」の中には、保護者が就労等の利用により、放課後の時間帯に家庭が留守になる児童のための「学童クラブ」もある。



◆区民インタビュアー取材後記◆

根岸 豊さん

白熊さんとは、私が社会教育で働いていた時期に出会っていた。当時は第7地区青少年育成員、豊島区青少年委員、手話通訳者として活躍している元気な方だと思っていた。
が今回インタビューで白熊さんが、さらに主任児童委員、保護司として地道に地域の小さなこどもやシングルマザー、青年など様々な人に寄り添い、ともに思い悩みつつ活動され続けている姿に心うたれた。









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