様々なひとが暮らす街。
ひとりひとりの日々の暮らしからそれぞれの物語が紡がれ、街の歴史を織りなしていく…
そんな物語の軌跡を区民インタビュアーがたどります。
3 みんなで思い出を共有した郷土史作品づくり
図書館の増設にともなって親子読書会が増え、連絡会の活動も充実していく。目玉となったのが、郷土史の掘り起こしである。親子で地域を歩き、『かるた』や『すごろく』、『紙芝居』などさまざまな作品もできあがった。大松幾子さんの声がけで昭和58年に完成した『豊島区郷土かるた』(1983豊島区立中央図書館)は、連絡会の代表作のひとつである。
「絵札は子どもの担当を決めましたけど、句はできたのを集めたんですね。そしたらすごくいっぱいになっちゃって。『あ』は、『赤ちゃんをだっこしている鬼子母神(※7)』っていうんですけど、うちの子が『ありがとう天からきた糸くもの糸(※8)』ってつくってたんです。慈眼寺(※9)に芥川龍之介のお墓があるから。『僕のは入らなかった……』って言ってたけど、『赤ちゃんの句がよかったからしょうがないよね』とか言って(笑)。みんな悔しい思いをしてるんです。だから、漏れた句の句集もつくったんですよ」
その15年後、『かるた』にした場所をメンバーで訪ね歩こうということになった。今度は、歩いた場所を絵に描き、厚紙に貼った大きな折絵本が平成7(1995)年にできあがった。それをもとに平成10年に完成したのが、区内88か所もの名所旧跡などを描きこんだ『豊島区郷土すごろく』(1998豊島区親子読書連絡会)だ。
「折り絵本は広げると延べ30何メートルもあったので、みんなで持てるように『すごろく』にしたんです。ちょうど連絡会結成20周年にあたってたから、記念出版になりました。これができたあと、大人たちから場所の説明が欲しいという意見があって、『豊島区郷土すごろくガイド としま区いちにっさんぽ』平成12(2000)年ができました。お母さんたちが結構、頑張って、子どもにまた絵を描いてもらったりしてね」
この『すごろくガイド』をつくる過程で、小林さんは豊島区の民話に興味を惹かれていた。調べてみると、豊島区の昔話の本が図書館にない。「じゃあ、つくろうじゃないの」と、今度は子ども向けの民話づくりに着手する。郷土史家の矢島勝昭さん(※10)に協力を求め、寺社の由来書や『豊島区史』をひもとき、子どもが親しめるように話を練った。そうしてできあがったのが、『としまの村ばなし いろはにお江戸38話』平成18(2006)年だ。
こうした仲間たちとの活動を通して残ったのは、作品だけではない。メンバーそれぞれに、子どもや仲間との思い出ができた。
「普通に親子読書会で集まって本を読んで、本についておしゃべりするだけだったら、こんなに続かなかったかもしれないですよね。『かるた』でも『すごろく』でも『さんぽ』でも、やっぱりその場所へみんなで行って、絵を描いたり俳句作ったりとか、共通体験がいっぱいできましたからね。『かるた』だったら、うちの子の描いたのとか私が詠んだ句とか、何分の一かは〈私のもの〉っていうのがありますから。そういう意味でもよかったかな」