としまひすとりぃ
ひと×街 ひすとりぃ

様々なひとが暮らす街。
ひとりひとりの日々の暮らしからそれぞれの物語が紡がれ、街の歴史を織りなしていく…
そんな物語の軌跡を区民インタビュアーがたどります。


6 親子読書会の幕は降りるも「感動」は刻まれ

社会の変化を受けて親子会員が減っていき、近年、活動の軸は図書館や学校での出張お話会へと移っていた。そして令和3(2021)年3月、連絡会は40年の歴史に幕を閉じ、各親子読書会も閉会した。活動の縮小やメンバーの高齢化などの要因があったなかで、新型コロナウィルス感染症の拡大が決定打となった。
「お話会がなくなって、ぼちぼち始めてる人たちもやっぱりマスクしてやってるし、マスクで読み聞かせはできないわねっていう感じで……。去年の6月ぐらいから閉会に向けてのやりとりを始めて、解散集会をしました。
会報(※11)は、ずっと一緒に活動してきた柳川昌子さん(※12)が編集長で、私も編集を手伝っていました。3月号(最終号)は思いもよらない人からも原稿をいただいたりして、文字ばっかりで、ぎゅうぎゅう詰めなんです。苦労して詰め込んで、出来上がって『ああ、やっとできた』と思っていたら、みんなから『よかったよ』『ずうっと読んでいったら感動した』って意見もあって。ああそうか、よかったのかなって、今は思ってます」

※11 豊島区親子読書連絡会会報
豊島区親子読書連絡会会報 第1号 1980年
豊島区親子読書連絡会会報 最終号293号 2021年

※12 関連映像: 「わが街ひすとりぃ」第20回北大塚 現地ロケ編

文化創造都市宣言記念 豊島区文化功労表彰 2005年

親子読書会が始まった頃、図書館が呼びかけた「親」とは、ほとんどが「母親」だった。小林さんのように仕事と家事・育児を両立しながら活動した人もいれば、苦労して家族の了解を得て参加した人、睡眠時間を削って活動した人もいる。子どもの成長とともに会員が減ったのは、自然なことだったかもしれない。ただ、小林さんはうれしい変化も感じている。
「今はコロナでお話会をやってないですけど、結構パパさんが一緒に来てくれてるな、っていうのは感じますね。とってもいいことだと思いますよ。
1人でも2人でも、1冊の本で『ああ、おもしろかったね』っていう体験をいっぱいしてほしいなと思うんです。なにか疑似体験ができるってことになりますからね。いろんな考え方を知るだけでも、気がつくだけでも、とってもいいと思うんですよね」

閉会に際し、かつて会員だった女の子から「本に吸い込まれるような思いがした」と、胸に響く言葉も届いた。本を通して別の世界に出会ったときの驚きや喜び。そうした鮮やかな体験が、親の心も満たしてきたと小林さんは振り返る。
「大人もきっと、子どもと一緒にすごく感動したとか共感できたとか、そういう体験の積み重ねがあったんですね。だから辞めずにきたのかなって思うんです。子どもがそうやって真剣な感動を得たときに立ち会えたら、親も幸せですよね。この間そうだった、また今回もそうだったというように、感動の瞬間に立ち会うことが重なって、両方が成長してきたような気がします」

(取材日:令和3(2021)年3月26日)



◆区民インタビュアー取材後記◆

根岸 豊さん

小林さんのインタビューが行われたのは、誰もいない静かな休館日の図書館だった。その傍らで、図書館職員さんが新型コロナ感染防止のために閲覧席にパーテーション設置をしていた。そんななか私は小林さんとは初対面で、緊張気味の雰囲気の中で始まった。
が小林さんは雰囲気を和らげるように、子供のころの体験や就職、結婚、子育て期、再就職ことなど気楽に話してくれた。さまざまなお話を伺ったが印象的だったのは、会社を退職した65歳から通信制大学で、図書館司書資格を取得したことを楽しそうに話されたことである。

吉田 いち子さん

私は平成2年の暮れに豊島区に越してきた。ある時、世田谷区に住む友人が「これ、読んでみて」と渡されたのが『豊島の民話』だった。これは『豊島風土記』の姉妹篇として編まれたものだった。
小学生の時から日本民話の世界が大好きで、休み時間になると図書館へ飛んで行って、民話を貪り読んだ。そんな自分にとって、まさにこれから自分の生活の基盤となっている豊島区にもこんなに素敵なお話があるのか!と心の底から感動した。
人のご縁とは不思議なものである。実は平成24年1月に小林和子さんと柳川昌子さんにお目にかかる機会があり、中央図書館の会議室でお話を聞いたことがある。きびきびとしたお話しぶり、それでいて優しい目をしていらした小林和子さんは印象的だった。『郷土かるた』の温かみ。『としまの村ばなし いろはにお江戸38話』など、それらは豊島区史の中にあるいわば鉱床の中から煌く宝石をひと粒ひと粒集めるが如く伝承をもとにした豊島区の素顔そのものだった。
今回のインタビューはそんな思い出もあり、心ときめいた。相も変わらず凛としていらして、その姿は本当に〝本〟が似合う方だと思った。親子読書会は単に「読書」だけでなく長い時間かけた郷土愛に満ち溢れた文化活動そのものである。その活動の温もりは、今後も次世代へと伝えられていくのだろう。









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