様々なひとが暮らす街。
ひとりひとりの日々の暮らしからそれぞれの物語が紡がれ、街の歴史を織りなしていく…
そんな物語の軌跡を区民インタビュアーがたどります。
4 手間暇かけた作品たちを次世代へのお土産に
連絡会で制作した郷土史関連の作品は、『かるた』が『すごろく』になり、『ガイドブック』になったように、何年もかけて作品化した例が少なくない。しかも、それぞれがじつに手が込んでいて、色あせない魅力がある。雑司が谷鬼子母神ゆかりの民話『すすきみみずく』の紙芝居は、豊島親子読書会が制作した。
「連絡会ができる前から、豊島親子読書会がいろいろ取り組んでたんですね。西ノ内という和紙を使った手刷りの紙芝居でした。とっても本格的で、版画の先生に来ていただいて、指導していただいてつくったんですよ。それから何年かして、『紙芝居もいいんだけれども、やっぱり本になってるっていうのはとってもいいわよね』ということで、本にしたんです。本にするとやっぱり、普及度が違いますね。紙芝居が昭和54(1979)年で、本になったのが平成22(2010)年だから、30年ぐらいたってから本になったんですね。もう息の長いこと。なんでもかんでもそうです」
江戸時代に水戸藩(茨城県)の特産物として知れ渡った西ノ内紙は、きわめて丈夫で保存性に優れた逸品だ。これに、『すすきみみずく』の民話と、子どもたちが彫刻刀でつくり上げた版画を刷り、紙芝居に仕立てた。完成まで2年ほどかかった力作である。印刷製本してもその完成度は目を見張るほどで、区内の図書館や幼稚園、小中学校へ配布され、いまや豊島っ子おなじみのお話となっている。
「親子読書会はどこの区にもあるのかなと思ってたんですけど、案外、珍しいようで、ほかには世田谷区くらいだそうです。豊島区で特徴的なのは、本を読むだけじゃなくて、郷土史関連の文化的活動などをしてきたということ。だから物として残ったりしたので、幸せなことかなと思いますね。次の人たちにお土産を置いていけるのがね。平成5年に刊行した『とげぬき地蔵さま』(1993巣鴨親子読書会)は、紙芝居がデジタル化されていますしね。紙芝居を電子化したときには、私たちも朗読して音声も入れたんです。今はインターネットで紙芝居を見られますから、本当にありがたいです。ずっと残りますものね」
『とげぬき地蔵さま』は、巣鴨の名所であるとげぬき地蔵尊を描いた絵本である。読書会の会員であり、連絡会の会報にも絵を描いてくれた前田岩夫さんが手がけてくれた。紙芝居版もあり、ほかの紙芝居とともにデジタル化されて駒込図書館の特設サイトで楽しむことができる。長年かけてできた多彩な作品群は、デジタル化が進み、次世代へと受け継がれているところだ。