としまひすとりぃ
ひと×街 ひすとりぃ

様々なひとが暮らす街。
ひとりひとりの日々の暮らしからそれぞれの物語が紡がれ、街の歴史を織りなしていく…
そんな物語の軌跡を区民インタビュアーがたどります。


6 仲間を増やしてバラを残せる未来に

大塚のバラを世話しているのは、40~65人のボランティアである。10人ほどがレギュラーメンバーとして担当エリアを受け持って手入れをするほか、月に一度手伝いに来るボランティアがそれを補助するかたちで手伝う。
「やっぱり、エリアで決めて責任を持たないとね。そんなに広い範囲はできないし、そのワンブースだけ責任を持ってくだされば、いつもきれいにできるんです。40人もいれば2時間で手入れが終わりますから、みんなでやるってすごいことですよね。もしエリアが増えたら、また別の担当者を決める。この間、入ってくれたかたはすごく一生懸命やってくれて、『今年はきれいに咲いたし、楽しかったわよ。生きがいになってる』って言ってくれたので、よかったなと思います。
ボランティアで来てる人は月に1回、第3日曜日の9時から2時間ぐらい。いつ帰ってもいいんですよ。だけど、なかなかね……」


ボランティアには強制力はないうえに、昔からの顔ぶれは高齢化が進んでいる。将来的な人集めや活動の継続について、少し思案しているところだ。
「今後、ここのバラを大事に見守ってくれる人を探すのは、本当に課題です。バトンタッチもしたいんですけど、ボランティアできる人っていうのは本当に限られてます。やっぱり肉体労働だから。草をむしるだけでも精いっぱいで、家に帰ってきたらマッサージチェアに座ったまま、3時間ぐらい動けないときがありますよ(笑)。
だからいずれ、お金っていうか、ちょっと払いたいなっていうのもありますよね。近くでコーヒー飲めるようにしたりとか、うまい仕組みを考えてね。付加価値として『土をいじると認知症になりませんよ』とか、そういうメッセージ出すといいのかな」

平成29(2017)年、大塚駅南口に駅前広場「TRAMパル大塚」がオープンし、協議会は200種400株ものバラを植栽した。大塚バラまつりの催しとして野点(のだて)をここで開いて大盛況だったが、コロナ禍を受けて現在はお休み中。いましばらくは、人々が静かにくつろぐ場所となっている。
「そこの広場はいい場所だと思います。朝からずっと年配のかたたちが座ってますね。憩いの場ですよ。ラジオ体操もしてますし、いいことですよね。そこでコミュニケーションとれる人もいるし。私なんかは座ったことないですけどね、いつも作業ばっかりで(笑)。だから、年を取ったらいい場所だと思います」

このまちが美しく、元気に変わっていくさまを見続けてきた林さんはいま、少し先のまちの姿を思い描いている。
「『次って何だろう』って、夢見てるんです。この街が変わって、公園ができて、そこにきれいな――また憩えるような場所ができて。それを見届けたらもういいかな。
十何年も活動してて思うんですけど、バラを育ててるとまちが好きになります。そこが一番、大きかったかな。大塚って、イベントなんかも手作りなんですよね。なんでも『自分たちで』っていうのがいいんです」

かつて仲間たちとふと願った夢は、「自分たちで」動かし続けることで実現していた。林さんが見つめる未来は、みんなで歩み固めてきた道のすぐ先にありそうだ。

(取材日:令和3(2021)年5月31日)



◆区民インタビュアー取材後記◆

根岸 豊さん

毎年春と秋の都電沿線のバラまつりは、秋の阿波踊りとともに大塚の名物行事。
そのバラを丹精込めて育て守っているのはどんな人だろう?さぞかし大塚を魅力ある街にしようと頑張っている意志のつよい方だろうと思っていた。
がお会いすると、ごく普通のお肉屋さんの<おかみさん>に見えた。
しかし、林さんはなかなかの人で、街の多くの人との縁を繋ぎ、大塚の街に『バラまつり』というブランドを付け加えた縁の下の力持ちだった。

吉田 いち子さん

今から、40年少し前。山手線「大塚駅」に降りた時の風景は今も私の脳裏に強く残っている。長女の保育園の入園面接で降りた駅だったからだ。仕事帰り、時間に追われ、慌てて大塚駅に降りる。でも当時は北口から南口には抜けることが出来ず、駅そのものに慣れない私は、ぐるぐるとまわっていたものだ。そんな中でも、大好きな都電の走る街にほっとした。都電が走り抜ける音に何とも嬉しい気持ちで毎日を過ごしていた。
月日が経って自分の日常生活も街の風景も変わった。そしてある時、都電のそばにバラを見つけた。そして、そのバラが次第に増えていくのを目の当たりにした一瞬があった。「なんと素敵な事!」と心が弾んだ。
さて、大塚で三代続く「林精肉店」に嫁いだ林英子さんにお目にかかりその明るさとバラが実にイメージ通りだった。林さんが嫁いだ頃の大塚はまだ駅前の放置自転車やゴミなど問題が山積みだったという。幼い頃から花いっぱいに囲まれて育ったという英子さんは家族や商店街の仲間たちと夢を語り合い、そして活動の起点となった。一株ずつこつこつと植えられたバラは今では1190株にもなったという。向原駅までの1.4キロメートルのバラロードが人々の心を癒し、地元だけでなく、遠くからもそのバラロードに魅力を感じ、楽しむ人々が訪れる街となっている。それぞれの人々のバラへの熱い想いで「バラのまち大塚」はますます華麗に発展していくのだと感じた。









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