としまひすとりぃ
ひと×街 ひすとりぃ

様々なひとが暮らす街。
ひとりひとりの日々の暮らしからそれぞれの物語が紡がれ、街の歴史を織りなしていく…
そんな物語の軌跡を区民インタビュアーがたどります。


6 はらっぱ公園で描く、手の届く未来像

公園の活動(※18)を始めてから10年ほど経ち、いまふたりが直面しているのが、世代交代の問題。毎月の会計を担ってきた植野さんとしても業務の引き継ぎが気がかりだ。

南長崎には先祖代々と続く旧家の存在感があり、それぞれにカラーのある町会同士がうまく連携できないという課題がある。最近はマンションも増えたことから、住民同士がつながりにくいと山本さんは見ている。
「長崎の地域性があって、よそから見ると非常に排他的だっていうんです。そうかと思うと、ポッとできたようなマンションがある。うまくコラボできず、古い人たちは古い人たちで付き合う。町会で五若という神輿の組織があって、青年部に若い子たちもいるんだけど、その人たちがマンションに来た人たちをうまく取り込んでいるかというと、ちょっと謎なんです。そこはこういう地域の一番の課題かもしれません」

※18 関連写真:イベントでの植野さんと山本さん(写真提供 有限会社まち処計画室)

もっとも、千早高校の奉仕学科から公園に手伝いに来てくれるなど、新たな動きもある。植野さんも、たまたま娘に代理を頼んだことをきっかけに、世代交代の方法を思案中だ。
「手伝いだけじゃなくて、何かひとつ、若い人たちが主体でやってくれるとね。娘も私の代わりでしょうがなくお茶を持って行ったら、楽しくしゃべって帰ってきたの。何か役目があったら、楽しいと思って仲間をつくるかしら」

はらっぱ公園の将来像を話し合っているうち、イベントのアイデアもわいてきた。まずは、植野さんの50年もの茶道経験を活かしたお茶席。年2回、いろいろな流派のかたが全昌院(※19)にきてお茶会を催している。植野さんもそのひとり。
「嫁に来て、お行儀が悪いからって言われてやらされて50年です。いまだったらそんな姑、大変ですよね。いい先生だったから50年続けられた。お茶は、若くてもお年を召していても楽しめると思うんです」

※19 全昌院(豊島区南長崎5-21-8):昭和14(1939)年福井県若狭の国から上京した先代により創建された。

全昌院は地域に開かれた寺で、山本さんも毎年チャリティバザーに参加してきた。とはいえ、やはり寺と聞くと敷居が高いのでは、と植野さんは少し不安そう。長引くコロナ禍に参っているという植野さんを励ますように、山本さんから、「野点(のだて)はいいですよね」「公園なら靴のままでいいし、ハードルが高くない」「俳句もやる?」などと提案があがると、植野さんはぱっと明るい表情に。
「お茶ならぜひ任せてください。お茶とお菓子でね。立てたい人は立てるの。やっぱり経験が大事なので。私、いくらでもできます。死んでいられませんね(笑)。頑張って生きていかないと」

次の温かい季節には、はらっぱ公園で新たなイベントが生まれているかもしれない。植野さんと山本さんが手を取り合って公園を育てる日々は、まだまだ続きそうだ。

(取材日:令和3(2021)年8月31日)



◆区民インタビュアー取材後記◆

根岸 豊さん

「南長崎はらっぱ公園」は豊島区立の公園だが、他の公立公園とはちがう。この公園は、まず地域の人たちが防災利用や防犯にも配慮した公園にと区役所への働きかけをしたことが一つのきっかけだったようだ。区は地域の人たちの意向を生かすべく、地域の人たちと<どのような公園にするか>についてワークショップを重ねた。そこで生まれたのが「南長崎はらっぱ公園」。
いわば<地域の人たちと区の職員>との知恵を寄せ合ってできた公園だ。ただ公園の開園で終わりではなく、植野さんや山本さんなど地域の方々の「南長崎はらっぱ公園を育てる会」の日常的で地道な活動が続いている。

吉田 いち子さん

「降る雪や明治は遠くなりにけり」・・・中村草田男の作品を思い出した。〝はらっぱ公園〟の響き。それは昭和の原風景を喚起する。数多くの子どもたちの敏捷な動きを優しく含有していた、あの昭和の時代。
そこを舞台に植野正与さんと山本ナミエさんとの出会いと活動。公園の歴史とともにそれはお二方それぞれの日々の体験と想いが映し出されている。
しかし、そんな二人が直面している世代交代問題。〝時〟が経てば、誰もが直面する問題なのだなと改めて感じる。でも次の時代の若者たちとの交流も生まれ、〝時〟が進んでも、ますます公園は活気を帯びていくのだろう。〝時〟が経っても土地の記憶はなくならない。そして愛情が深ければ深いほど土地への愛着となって、地域になくてはならない存在となる。それが〝はらっぱ公園〟なのだろう。









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