様々なひとが暮らす街。
ひとりひとりの日々の暮らしからそれぞれの物語が紡がれ、街の歴史を織りなしていく…
そんな物語の軌跡を区民インタビュアーがたどります。
4 この土地に根を下ろし、場をつくる
もともと人をもてなすことが好きだったとはいえ、カフェの開業のノウハウは持ち合わせていない。そこで本橋さんは、カフェの学校に通い、経営・現場のいろはを学び始めた。さらに、起業の相談や各種セミナーを開催する「としまビジネスサポートセンター」(※4)も活用し、平成26(2014)年に「株式会社 和・輪・環」を設立。翌年2月、カフェ「藤香想」(※5)をオープンした。
当初の予定通り2年ほどで開業できたものの、本橋家の敷地内に建つ民家をリノベーションすることなど、周囲からの反対意見は多かった。
「とにかく場所はここなんだ、って決めていましたけど、ずいぶん反対されましたよ。学校で勉強した立地とか商圏にも当てはまらないから、ここの魅力とか売りを散々説明しました。そこを学校の先生に理解してもらうのはなかなか難しかったですね。
最初に店をやるという話を(家で)したときにも、『素人に飲食業は務まるものじゃないよ』『そんなに簡単なことじゃない、継続するのが大変なんだ』って何度も言われました。やっぱり相当な資金を費やして始めることなので……。あとは、『いろんな人が出入りするのも大丈夫なのか』とか。いろんな心配はありましたね」
※5 関連映像:わが街ひすとりぃ 第14回要町(現地ロケ編)
「藤香想」の建物は、かつて本橋家が人に貸していた築60年以上の木造家屋だ。
「この古民家を借りて開業できたことは、本当に感謝ですね」
家屋を店にリフォームする際にも、耐震やシロアリ対策など古い建物ならではの課題をクリアしながら、工夫をこらした。壁は漆喰風に仕上げてコストを抑え、建物外観の床下で目を引く赤い車輪はいただきもの。要町の祭で使っていた「花車」という山車(だし)が不要になったので、転用したのだ。そのすぐそばには、店名に入っている藤の木が植えられている。「藤香想」の「藤」は、本橋家のある先祖が藤を栽培し、鉢植えにして売りに行って財をなしたという言い伝えにちなんでいる。「藤香想」の「香」は本橋さんの名前が由来だ。
「ここの名前は『藤香想』っていうんですけど、私のやりたいのはどっちかっていうと――最初に“集う家”って名付けてるんですけど――、いろんな人がいろんな想いでここを利用して、関わり合っていきたいということなんです。それぞれの舞台にしてもらえるといいかな」