様々なひとが暮らす街。
ひとりひとりの日々の暮らしからそれぞれの物語が紡がれ、街の歴史を織りなしていく…
そんな物語の軌跡を区民インタビュアーがたどります。
6 子どもが教えてくれた、未来の作り方
栗林さんの活動は20年目に入った。近年では豊島区・東京都・国からの求めに応じて審議会の委員を務めるなどして、ノウハウや知見を活かしているところだ。
「プレーパーク事業ができるのは豊島区の委託のおかげ」という栗林さんだが、区と会議などを重ねるなかで改善してきたこともある。最近、区に必要性を伝え、ようやくプレーパークの荷物小屋に電気が開った。またコロナ禍では、フードサポートの活動に多くの方・企業からの支援を受けて協力体制ができてきた。
「子どもたちにできることをしたい人は、私だけじゃないっていうことでしょうね。だって、想像してみてください。子どもが『おうちにお金がないけど大丈夫かな? このまま生活できるのかな』って思いながら暮らしてるって、苦しいですよね。最初に勉強を見てた子も、うちに来たときに初めて――プレーパークではそんなこと一言も言わなかったんですけど、『お金の心配しない日なんて一日もない』って言ったんです。泣きそうになりました。それって親の責任にしていいのかな、と思いますよね。『家がそうなんだからしょうがない』『人のうちに立ち入るな』っていう意見もあるけど、子どもの責任ではないし、何かできることがあるんじゃないかなって。それを考えたいですね」
平時から官民連携の機会を増やし、弱い立場の人が行政に頼りやすい関係づくりを築く。これまでの蓄積を踏まえ、栗林さんがいま必要だと考えるのはそんな在り方だ。
「子どもに近い私たちだからこそニーズが見えるので、仕事も住まいもサポートできる。いろんな素晴らしい事業をまわしてる豊島区でも、弱い人たちに寄り添わないと、一見、強い町でも、どこかで何かが起こってしまうんじゃないかなと思います。それと、一口に子どもといっても、ゼロ歳と15歳では支援のメニューも関わり方も違う。だから、若者支援をする団体、女性を支援する団体、私たちみたいに『とにかくおせっかいしていきましょうよ』という団体、どれも必要だと思うんです。情報共有して連携して、っていうのが大事なのかな」
じつは、WAKUWAKUの活動の原点のひとつである〈おせっかい〉は、栗林さんの長男が小学生の頃に残した言葉がヒントになっている。
「長男が、池袋を紹介する作文に、『この町には栗林知絵子っていうとてもおせっかいな人がいます。困ってる人を見るとすぐに声をかけます。この町には他にもおせっかいおじさんとおせっかいおばさんがたくさんいて、町の交流が豊かです。だから僕はこの町が大好きです』って書いたんです。それが数年後に出てきて読み返したときに、『うちの子は、私が見えてないところで地域のいろんな人たちに声を掛けてもらい、この町が好きになっていたんだな』って教えてもらったんです」
その長男夫婦が出産で、さらに次男が就職のために戻ってきて再び一緒に暮らすことになった。春からは8人の大家族。息子たちを迎える準備について話す栗林さんの声が弾む。
「わざわざここに戻ってきて産んで、ここに住むんだって。近くに公園もないし、大変だよって言ったんですけど、『子どもを大切にしてくれる人たちがいっぱいいるから、この町で育てたい』って。本当にうれしいなと思ってね」
地域の大人たちに育てられた子どもが、のびのびと成長する。そして、かつて見た「楽しそうな大人たち」を思い出しながら、同じように次世代を育てていく。栗林さんが思い描いてきた未来は、手の届きそうなところにあるようだ。
根岸 豊さん
インタビューで印象に残ったのは、栗林さんが「プレーパーク」で子どもたちと接する中で、「おせっかい」だと思われる小さな支援がきっかけだったこと。そしてそのことが、現在の子どもたちを取り巻く社会の課題に気づかれ「こども食堂」などに取り組まれた。その活動の過程でさまざまな人たちに出会い、ホームスタート、夜の児童館、無料学習支援など活動の幅を広げている。広がった活動にはそれぞれを担う人がいるようなので安心だが、栗林さんが頑張りすぎて壊れないよう。
吉田 いち子さん
古典落語に「小言幸兵衛」がある。のべつまくなし小言を言っているのでそう呼ばれているのだが、実に軽妙な面白さが伝わる噺である。しかし「小言っていいな!最近はそんな人間っていないなぁ~出てきたっていいのになぁ」とずっと思っていた時期があった。勿論、小言は言われたくないし、別段、幸兵衛はいなくてもいいのだが。「あまり深くはかかわらないように」「人とは距離をおいて付き合ったほうがいいのよ」など、余りにも人と人との関係が希薄な昨今に、淋しさを感じてふっと思ったのかも知れない。
そんな時だった!私の前に〝おせっかいバッチ〟というものが現れたのだ。私は、しばし声もでないほどの衝撃をうけた。「今の世におせっかいを?」と、そのバッチを握りしめた。それが栗林さんとの最初の出会いだったと記憶している。「そうか!おせっかいしてもいいのか!」と妙に嬉しくなった思い出がある。
インタビューをしながら改めて感じた。決して気負う事なく、心の底から湧き出る「子どもたちへの愛情」を感じた。誰もが出来そうでなかなか難しいことを栗林さんはやってのける。気が付くとその独特のオーラに引き込まれてネットワークが作られていく。楚々とした風貌からは想像も出来ないほどの強烈な個性と何かを動かしていく、変えていく、そんなエネルギーを持っている栗林さんだ。
イキイキした大人たちを見て、「早く大人になりたい!」と思う子ども達がどんどん増えていく地域づくりのために、ますますワクワクと胸の高鳴るような「WAKUWAKU」は活動分野を大きく拡げている。