採取した昆布は、天日乾燥によって干製品に加工されるので、昆布を干すための干場が必要になる。昆布採取にとって干場は不可欠であったが、同時に干場の適否が昆布製品の品質に影響するので、干場の地質・地形・立地などが、昆布採取業には極めて重要な条件になった。干場は、海浜部にあって、日当たりが良く、水はけの良い平坦な砂地が適地とされていた。
『予察調査報告』によれば、渡島地域の干場について、「渡島国ニ至テハ干場概シテ狭小ニシテ不便尠カラズ就中茅部尾札部臼尻地方ハ元揃昆布ノ名産地ナレドモ其干場ノ不便ナルアルヲ以テ年々干場ノ修築ニ費ヤストコロノ額尠トセズ又亀田郡椴法華ヨリ汐首ニ至ルノ間モ干場概シテ狭小ニシテ或ハ背後ノ丘上ニ干シ甚シキハ屋上ニ干スモアルナリ蓋シ此地方ニ於テ良質ノ昆布ヲ産セザルハ其成育ノ佳ナラザルモノ一原因タルベシト雖トモ干場ノ不完全ナル亦其一原タラズンバアラズ若夫レ汐首ヨリ以西函館大森浜ニ至レバ干場概ネ細砂ニシテ且ツ広ク志苔石崎地方ヲ以テ良好トス」とある。これによると、銭亀沢を含む汐首から函館の大森浜に至る海浜部は、良好な昆布干場であったことが知られる。この地帯の昆布は、「折」「花折」の名称の銘柄品として、京阪各地に出荷されていた。
一隻の昆布採取船が昆布を干しあげるために必要な干場面積(一艘浜)は、渡島では、尾札部が一四〇坪、志海苔が一三〇坪、上磯が四〇〇坪となっている(『予察調査報告』)。また「昆布採取業報告」には、「少キハ採取夫一人ニ付五六十坪ヨリ多キハ三百坪余ニ至リ、採収ノ豊カナル処ハ百五六十坪ヨリ二百坪ヲ以テ普通トス」として、「真昆布場(銭亀沢を含む・筆者)一、二人乗一艘、五六十坪乃至二百坪」とある。