漁船
◎漁具
種類及使用ノ區域
本道中鱈漁ニ使用スル漁具ハ四種トス、曰ク這縄、曰ク浮縄、曰クごろた縄、曰ク刺網是レナリ這縄ハ全道各地ニ行ハレ他ノ三種ハ渡島及後志ノ南方ニ使用セリ。(中略)
・使用ノ場所
以上四種ノ漁具ヲ使用スル海底ノ模様ヲ略記セハ
這縄ヲ使用スルハ海底砂泥又ハ粗礫平盤ノ處ヲ常トス時ニ或ハ海底岩礁ノ處ニ於テ亦使用スルコトナキニアラスト雖モ垂綸動モスレハ岩際礁角ニ纒繞シテ引揚ケニ苦ミ且ツ漁具流出損亡ノ憂アリ。
浮縄ハ魚族ノ餌食ヲ求メント欲シ浮泳スルモノ又ハ漫遊シテ底地ヲ離レタルモノヲ漁獲スルノ目的ナレハ長時間海中ニ垂放スルヲ以テ風波静穏流亡ノ虞ナキ内灣ニ使用スルモノトス。
ごろた縄ハ一條ノ流縄ニシテ主トシテ岩礁ノ間ニ垂下シ釣獲スルヲ目的トス乃チ纒繞ノ憂ナク這縄ヲ垂ル可ラサル所ニ効用アリ是レごろたノ名起ル所以ナリ。
刺網ハ風波潮勢ノ平静ニシテ且ツ水深淺キ内灣海底砂泥ノ地ヲ撰ンテ之レヲ投入ス是レ漁具ノ複雜ニシテ之ヲ使用スル勞容易ナラサルヲ以テナリ。
・這縄構造
幹縄・枝糸・鉤・浮標縄・浮標・沈錘ノ六具ヨリ成ル其構造ハ各地多少ノ差違ナキ能ハスト雖モ概子左ノ如シ
一、幹縄、方言、親縄、鱈縄、胴
原料 かなひき苧、いわ糸
長 七十尋乃至二百尋
量目 一尋ニ付一匁乃至三匁
いわ糸ナレハ三枚大ヨリ八枚大マテノモノヲ用フ
原料ハ素色ノ儘使用スルアリ又澁ニ染ムルアリ往時ハかなびき苧ヲ使用セシモ現今ハいわ糸を用ル多シ縄ノ長キヲ用ルハ恵山附近ノ漁民ニシテ百二十尋ヨリ百七八十尋ニ及フ、(中略)其他庄内・越後入稼漁民ヨリ傳播セシ地方ハ七八十尋ヲ普通トス、盖シ郷國ノ慣行ヨリ遷移セシニ在リ。
二、枝糸、方言やめ
原料 かなひき苧、水澤苧、いわ糸、からむし
長 二尺五寸乃至六尺
量目 一尺ニ付五厘乃至一分
いわ糸ナレハ一枚大ノモノヲ用フかなひき苧ヲ用フル最モ多シ枝糸ノ要ハ細纎ニシテ強靱ヲ要スレハナリ
三、鉤、方言はり、つり
鉤ノ形状種々アリ大別シテ三トス其製作皆東北諸縣ノ漁民ヨリ傳來〓化シタルヲ以テ今假リニ其國名ヲ取リ越後形・庄内形・南部形トスすど(鉤ノ根部)ヲ彎曲セシムルアリ眞直ナラシムルアリ短アリ長アリ尖頭ノ著シク曲カルモノアリ稍直ナルモノアリ細微ノ點ニ至テハ文字ノ能ク記ス可キニアラス、(中略)
四、浮標縄、方言ぎば、せなわ、たちもの
原料 かなびき苧、いわ糸、いちび、しな
長 水深ニ應ス
徑 一分乃至一分八厘
量目 一尋ニ付三匁乃至四匁
普通ノ原料かなひき苧、いわ糸の二種トス、(中略)亀田茅部二郡ハしな皮ヲ用フノ異例ナシトセス其長短ハ水深ニ應シ伸縮アリ六十尋乃至七十五尋ノ者ヲ繼足シテ用フ又別ニ(に)三十尋内外ノモノヲ備フルヿ(こと)アリ、潮流ノ緩急ニヨリ水深二倍ノ延長ヲ要シ若クハ三分ノ一ヲ加フルヿ(こと)アリ一定ノ縄墨ヲ以テ規シ難シ径ハ前記ノモノヲ普通トスレトモ(ドモ)惠山附近ハ五分大トナシ以テ暴風ノ際漁船ヲ繫維スルノ用ニ備フ浮標縄ノ名、用所ニ由テ之ヲ異ニス、即チ最初ニ投入シ這縄ノ起點トナルモノヲ元背縄ト云ヒ終點ノモノヲ裏脊縄、沖脊縄ト云フ此中間ニアルモノハ総テ中脊縄ト称ス。
五、沈錘、方言手石、脊石、なっつ石、まつけ
沈錘ニ二種アリ一ヲ手石若クハ脊石或ハなっつ石ト云ヒ一貫二三百匁ヨリ二貫目内外ノ石ヲ用フ、越後、庄内ノ入稼漁民及之ニ傚フモノ之ヲ用フ一ヲまつけト云ヒ鈎状ノ木枝ニ五百匁内外ノ石二個ヲ附ス、惠山及擇捉等ニ行ハル右ノ二種ハ何レモ元脊縄、裏背縄ノ兩端ニ専用ス其中脊縄ニ綴合スル沈錘ハ皆手石ニ属ス重量四五百匁トス又毎一枚ニ用ル小手石ハ重サ二百匁内外ノ量アリ潮流ノ激流ノ激烈ナルトモハ更數個ノ錘石ヲ増加ス。
六、浮標、方言うき、ぎば樽、しらせ
一二斗ノ容量ヲ有スル空樽又ハ石油空罐ヲ用フ樽ハ上面ノ鏡ヲ抜キ底部以下ノ側板ヲ切リ去リ底ノ中心ヨリ脊縄ヲ垂下シテ用フルヲ例トスレトモ起點ト終點ニ用フル二個ハ鏡ヲ抜カサル地方アリ其鏡ヲ抜クハ浮子ト爲サゝル前縄ヲ樽中ニ収メ置キテ之ヲ整理スルノ具ト爲スヲ得ルノ便アルニ由ル、石油空罐ハ穴隙ヲ密封シ上面ノ把手ニ脊縄ヲ結ヒ之レヲ投入ス又浮標ヲ見易カラシメン爲メ旗ヲ附スモノアリ
以上ノ各部ヲ連結スルニハ幹縄ヲ基本トシ六尺乃至一丈二尺ヲ隔テ枝糸ヲ附シ其末端ニ鉤アリ一條ヲ一枚ト稱シ數枚ヨリ連續シテ數十枚ニ及フ元脊縄、沖脊縄ノ兩浮標縄ヲ施シ連結ノ數增加スルニ從ヒ中背縄ヲ附ス其割合ハ五枚乃至十枚ニ至リ一縄ヲ加フ、(中略)
惠山
幹縄ノ長及原料 百五十尋～百八十尋、かなびき
枝糸ノ長及原料 二尺五寸～四尺、かなびき
枝糸ノ數及間隔 百條～百二十條、六尺四寸～九尺
釣鈎用針金ノ重量 一尺二寸～二匁
・浮縄構造
略這縄ト同シ這縄ハ下底ニ沈定セシムルモノニシテ浮縄ハ水ノ中層ニ浮ハシムルモノトス浮子ノ位置ハ海底ヲ去ル約六七尋ノ所ニアリ其目的ハ海底ニ群カル海蟲ノ爲メニ釣ニ上リタル魚ノ肉ヲ啖シメサルト夜間浮上シテ餌ヲ求ムル魚ヲ釣獲スルニ在リテ函館港ノ漁夫カ二三年前迄使用セシモ近年薄漁ノ爲メ多ク用フルモノナキニ至レリ幹縄ノ長百尋ニシテ二尋毎ニ枝糸ヲ附ス其長二尺乃至五尺ナリ又幹縄一條ニ付スルニ一二個ヨリ多キハ五個ノ浮子ト一個ノ沈錘トヲ以テス浮子ハ長六寸巾二寸ノ桐板若クハ長七寸徑一寸ノ圓材ヲ用フ其材ハ漆ヲ以テ最上トス沈錘ハ五十匁乃至百五十匁大ノ石ニシテ各幹縄繫合ノ際ヨリ第三條ノ鈎ニ懸ケテ垂下ス一連ノ浮縄ノ始終及中央ニ於テ更ニ一個ノ碇ヲ下ス。
・ごろた縄構造
手釣漁具ノ一種ニシテ、南、松前郡ヨリ北、島牧郡ニ至ル各郡中久遠太櫓ノ二郡ヲ除ク外ニ行ハル其具亦幹縄、枝糸、浮標縄、浮標、沈錘、釣鉤ヨリ成ル其結構各地トモ殆ト同一ニシテ唯浮標縄ノ長短枝糸ノ多寡ニ差アルノミ故ニ爾志郡ニ行ハル、具ヲ詳記シ他ハ類推スルヲ要ス(中略)
幹縄ノ長五尋半乃至七尋ヲ普通トス時ニ或ハ八九尋ノ縄ヲ使用スルヿアリ必ラスかなびき苧ヲ四ツ組ト為ス盖シ水中ニ垂下スルニ當リ撚リ糸ヲ用フルトキハ魚ノ釣ニ上リタルトキ回轉シテ撚リヲ戻シ切斷セラルゝノ患アルヲ以テナリ是レ方言ぐみノ名アル所以ナリ一條ノ量目凡ソ三十匁ヲ要ス枝糸ハ這縄ニ用フルモノヨリ細小ニシテ撚ヲ加フル固且ツ密頗ル強硬ナリ長サ一尺四五寸相互ノ距離一尺五寸ヨリ二尺四寸ニシテ一幹縄二十五條乃至三十條ヲ結着ス浮標縄ハ這縄ノ幹縄ト同大ニシテ長八十尋ヨリ百七十尋ノ間ニ在リ浮縄ハ其上端ニ樽ヲ浮ヘ沈錘ハ幹縄ノ下端ニ石ヲ附ス其重サ三百五十匁ヨリ四百五十匁ヲ通例トスト雖トモ海ノ深淺ニ由テ差異アリ秋漁ニハ錘大ニシテ量重シ釣鉤ハ這縄ト同フシテ且ツあげ(方言あぐ、あご)ヲ付ケ釣魚ノ脱逸ヲ防ク。
・刺網構造
各地略同一ナリ上磯郡札刈、木古内等ハ冬季ハ鱈漁ニ使用シ四五月ニ至レハ雜漁ニ兼用ス故ニ毎戸此網ヲ藏セサルナシ其製底刺網ニシテ壁狀ヲナセル細長形ナリ網地・浮子・沈錘・碇・浮標縄・浮標・六具ヨリ成ル(以下中略)
・漁法
※漁塲ノ位置ヲ定ムル法
漁塲ノ位置ヲ定ムルハ這縄ニ必要ナル業務ナリトス、盖シ淼茫タル洋中ニ釣ヲ垂ルゝハ日常能ク海水ノ深淺、底質ノ如何、魚群集散ノ實況等ヲ明ニシ之ヲ胸臆ニ收メテ然後之カ業務ニ從フニアラスンハ好良ノ結果ヲ收メ難シ此ヲ以テ鱈漁民ハ其地漁塲ニ於ケル實況ヲ知悉シ尚ホ其局部ノ位置ヲ識別スルノ便宜ニ供センカ爲ニ左ノ方法ヲ用フ
第一 磁針ヲ用フルヿ
第二 山巓、岬角、〓谷等ノ目標ニ據ルヿ
第三 錘測ニ據ルヿ
(以下略)
※漁具使用法
刺網ハ拾把内外ヲ一繫トシ日暮ニ及ンテ之ヲ海中ニ投ス翌朝ニ至レハ則チ浮標縄ニ由リ錨ヲ揚ケやり縄ヲ手操リ次テ網ヲ收ム之ヲ取扱フニハ漁夫二人ヲ以テ普通トシ漁船ハ持符或ハ磯舟ヲ用フ使用ノ期ハ十二月中旬ヨリ一月中旬ニ限ル魚肉肥満ノ時ヲ撰フニ由ルナリ
浮縄ハ一人出漁ノモノハ五六枚二人出漁ノモノハ(は)八枚乃至十五枚ヲ一繋トシ用フ一回之ヲ投スレハ五日乃至八日間ハ放置シテ收ムルコトナク只毎朝時ヲ期シ其場ニ至リ鱈ヲ外シ餌ヲ附ケ換ユルノ勞ヲ爲スノミ本縄使用ノ期ハ一月初旬ヨリ三月頃マテヲ限ル三月以後之ヲ用ヒサル所以ノモノハ此期ニ至レハ魚族漸ク遠海ニ退去シテ灣内ノ群集極メテ稀疎トナレハナリ。
ごろた縄は漁船一艘ニ付キ二提乃至四提ヲ備フ之ヲ使用スルニハ先ツ其一提ヲ放流シ其距離漸ク遠キニ至レハ更ニ一提ヲ放ツ如此順次投入シ了レハ船ヲ潮下ニ致シ其先キニ投入セルモノヨリ次第ニ之レヲ収ム一日使用ノ回数ハ少キハ一兩回、多きハ凡ソ四五回トス(以下略)
・餌料
※種類及使用ノ區域
鰊・鰮・章魚・鰔・〓・鰈・かぢかノ七種ハ(は)首位ヲ占メあいなめ・鮊・柔魚・鯣・鰤・鮫・鯖・そい・此目魚・ちか・鮭・淡菜・ごっこ・かます・がずなぎ・いかなご・鱒等之ニ次ク(以下中略)
渡島國惠山附近
初期ハ柔魚・章魚ヲ用フ後期ニ至レハ鰮ヲ雜ヘ二月以後ニ及ヘハ鰊ヲ主トス欠乏ヲ告クレハ各種ノ餌料ヲ混用ス柔魚ハ多ク近地ノ鮭建網ニ漁シタルモノヲ購入シ章魚ハ各自ニ之ヲ漁シ若クハ近地ニ之ヲ求ム鰊ハ近年其産漸ク減シ有川地方ノ輸入ヲ仰ク其價格ハ漁況ノ豊凶ニヨリテ高低一様ナラス柔魚二斗樽貳拾錢内外ノモノ漁期ニハ暴騰シテ四十五錢ヨリ七八十錢ニ上ル又章魚ハ二斗樽(其量大釣十貫匁)凡ソ七八十錢ヨリ一圓貳参拾錢鰊ハ同ク五十錢乃至六拾錢トス
明治中頃の鱈漁業
明治28年北海道水産調査報告巻1干鱈漁業
・鱈の製造
乾燥鹽藏ヲ主トシ生賣ニ至テハ市民ノ食料トシテ五十集(イサバ)商僅カニ小賣ヲ爲スニ過キス、近年航海運輸ノ便開ケ仙臺東京ニ輸出ノ新販路ヲ加ヘタルモ函館・小樽・室蘭等ニ接近スル漁村其利ニ浴スルノミ
製品ノ種類及産額(産額は省略)
製品ヲ大別シテ三種トス曰ク乾鱈・鹽乾鱈・鹽鱈是レナリ、更ニ之ヲ細別セハ左ノ如シ。
棒鱈 惠山附近掛鱈ト称ス
乾鱈｛ 惠山附近棒鱈ト称ス
丸乾 祝津地方丸こぼしト稱ス
開鱈
鹽乾鱈｛
鹽鱈
鹽鱈 新鱈
右ノ内丸乾・鹽鱈ノ二種ハ製造盛ナラス開鱈モ衰退シ昔日ノ盛ヲ見ス廿六年ノ産額七十三石ニ過キス新鱈ハ需用較多ク同年ノ製品二千六百六十一石アリ棒鱈ハ需用最モ博ク一萬三千五百二十七石ノ巨額ニ達セリ副産物ニ肝油アリメ粕アリ胃・卵・しらこ等アリ其收利又尠カラス。
乾鱈、各種ノ製造ヲ記スル始メニ當リ一般ニ關スル事項ヲ略記セハ漁船帰着スルヤ岡廻リ(陸上ニ在テ製造ニ従事スルモノ)ハ魚ヲなつぼニ運搬シ直ニ製造ニ着手ス帰船若シ日沒後ニ在レハ翌未明ヨリ就業スルヲ常トスなつぼノ構造ハ方六七尺ニシテ高サ三四尺ノ抗ヲ植ヘ三面簾ノ如キモノヲ以テ之ヲ圍繞シ一面ヲ放開ス
棒鱈、骨付骨抜ノ二類アリ一類ノミヲ製スル地アリ二類併セテ製スル地アリト雖トモ専ラ骨付ノミヲ製スルハ僅カニ花咲・釧路方面アルノミ是レ此地ノ魚族ハ躰形概シテ細小ナルヲ以テ故ニ骨抜ヲ製セサルモノトス高島・余市・古平・岩内・檜山・室蘭・静内・浦河・幌泉ノ各地ハ生賣ノ外新鱈ヲ終リ二三月ニ及ンテ骨付ヲ製ス其他一般骨抜ヲ製セサルノ地ナシ骨付ノ骨抜ニ比シテ低價ナルニ拘ラス特ニ此期ノ漁獲ヲ骨付ニ製スルハ寒気ノ為メ魚肉凍冰シテ纎緯(ママ)崩解色澤脱腿シテ白色若クハ暗黄色ニ變シ外観醜悪トナリ之ヲ内國用タル骨抜ニ製スルモ以テ華客ノ顧〓ヲ牽ク能ハサルト産卵後ノ魚族ハ肉瘠セ量目減殺スルヲ以テ骨ヲ存シ減量ノ幾分ヲ補足スル所アラントスルニ由ルモノタリ、骨抜(又せだらト云フ)製法ノ順序ハ魚ヲ截割臺(長一間巾二尺ヲ通例トシ筵ヲ布キ魚ノ滑脱ヲ防ク高サ概子三尺)ニ置キ頭部ヲ右ニ腹部ヲ外方ニ向ケ左手ヲ以テ魚躰ヲ扼シ右手ニ刀ヲ執リ先ツ咽喉ヲ横斷シ更ニ頸部ノ左半ヲ切リ又刀ヲ横ヘ尖頭三四寸ヲ頸部ニ刺通シ背椎骨ニ沿ヒ魚躰ヲ縱斷スルコト四五寸次テ刀尖ヲ腹部ニ貫キ截割シテ尾根ニ達ス是ニ於テ魚躰ハ縱割セラレ左半躰ハ僅カニ咽下三寸許ノ肉ニ由テ右半躰ト連繫スルノミ乃チ展開シテ内臓類ヲ去リ更ニ回轉上下シテ内部ヲ截割板面ニ帖セシメ左手左半躰ヲ扼シ右手刀ヲ執リテ右半躰ノ頸肉ヲ断チ次テ背椎骨上ニ沿ハセテ一刀截割尾部ニ及ヒ骨肉終ニ全ク相分離スルニ至ラシム(第十一図参照)此ノ如ク截割其法ヲ了レハ之ヲ乾燥場ニ掛ケ大凡一ヵ月間乾燥ス是レ骨抜ノ製法タリ即チ第十二図版(3)ノ如キ製品ヲ得ヘシ(尾鰭ヲ去ルモノ多シ)又骨付ノ製ハ前法ノ如ク左半躰ヲ割キ直チニ右半躰ニ於ケル頭部ヲ切リ除キ背椎骨ハ其儘之ヲ存スルヲ常トスルモ時ニ或ハ其半バ若クハ尾際四五寸ヲ存スルニ止マルモノアリ同上図版(2)ハ即チ其普通ノ製タリ酷寒中ハ積雪ノ裏ニ穴窖ヲ設ケ莚ヲ布キ層々相併列シテ三尺内外ニ達セハ更ニ莚ヲ蔽ヒ雪ヲ盛リ三月中旬頃寒気減退シテ凍結ノ憂ナキ迄貯蔵シテ腐敗ヲ防キ春日ニ乾燥スルヿアリ執刀截割ノ實況ハ第十一図版ニ示ス如シ
上記ノ手續キヲ了スルハ僅カニ二三十秒時ニシテ足ル婦女一人一日一千尾ヲ調製スルヲ普通トス(中略)
九乾、ぴん魚ノ胃腸及鰓ヲ去リ割截セスシテ天日ニ乾燥スル三四週日製地ハ亀田郡・高島郡ニ止リ其量極メテ少ナシ。
結束ノ方法、東部沿岸ノ漁民ハ概子二貫五百目ヲ一束ト為シ西部沿岸ノ漁民ハ二十尾ヲ一束ト為シ横三ヶ所ヲ約シ縱ニ一縄ヲ施シテ緊束ス滊船積ミト為スニハ六束乃至八束ヲ一丸ト称ヘ(第十三図版参照)更ニ纒約ス。
恵山漁場鱈漁獲高 (北海道水産調査報告書第一鱈漁業)